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7.


暑さに弱いからか、部屋の暑さゆえか、少しだけ紅潮をしたあのひとの頬。
物珍しさと、自分勝手に感じてしまった愛情ゆえに、気付けば自らくちづけていた。
そっとくちびるを寄せていた。
途端、大きく見張る翡翠の瞳。
「――珍しいこともあるもんだな」
驚いてはいるようだけど、予想外にも厭うている素振りは見られない。
それにホッと小さく安堵したところで、髪を引かれる。
くちづけられる。
眇めた瞳はどこか愉快げに。
にんまり弧を描くくちびるは、酷く楽しげに見えたのは。
…果たしてあたしの気のせいだろうか?
いつもだったら性急に、寝台の上に押し倒されている頃なのに。
いつもだったらくちづけなんてお座成りなのに。
果たして先ほどの宣告通り、部屋が暖まるのを待っているからなのか。
今はまだ、くちびるをただ重ねているだけ。
それも、豪く丁寧に。
執拗なまでに、舌を絡めて口腔を犯す。
思わず息が上がりそうになる。
「っへ、へー…か、」
「悪リィ。あと、もうちょっと」
嫌なら止めるが、と問い掛けられて、力無くも首を振る。
「や、じゃ…ない、です」
むしろ嬉しい。
こうしてくちづけてもらえることが。
いつもキスがお座成りだったのは、事を為すのに必要のない行為と割り切っているからなんだと、ずっと思っていたからゆえに。
どうしたって心は震える。
愛されているような錯覚をする。
(うん、まあ…錯覚・なんだとおもうけど)
だってこのひとには意中のひとがいる筈だもの。
黒い目に黒髪、華奢で小柄なおんなのこ。
あたしとはまったく真逆なタイプのおんなのこ。
本当だったら陛下が皇妃に迎えたかっただろうひとが…。
そう思ったら、いつも以上に胸が痞えたように苦しくなった。
卯ノ花女史は、結局何も教えてくれはしなかったけど、以前陛下が頻繁にその子の部屋へと通っていたことを、否定することは終ぞ無かった。
そうしてホホと笑って、それは皇妃様から陛下ご自身に確かめてみたらよろしいでしょう、と。
何故か侍女ふたりにも口止めをした。
その侍女達も、何でか愉快げに笑っていたのが不思議だった。







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