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5.


そして再び訪れた夜。
今夜も遅くになってから、皇帝陛下があたしの部屋の扉を軽くノックする。
疲れたような顔をして、部屋の中へと歩を進める。
その途端、ムッと顰められた眉。
「…暑くねえか?」
素早く暖炉へと目を走らせて、火を消そうとしたところで。
「ダメです!!」
と、慌ててあたしは制止を掛けた。
それに陛下が一瞥をくれる。
恐ろしく不機嫌極まりない。
けれどここで退くわけにはいかない。
だって確かに宮廷侍医たる彼女は言ったのだ。
皇帝陛下は氷雪系最強の霊力の持ち主ゆえ、暑さには大層敏感ですが、寒さを感じることは殆どございません。
ゆえに、ここ最近の急激な夜の冷え込みも意に介しておられないかもしれませんが、氷雪系の霊力と無縁の皇妃様が部屋も温めずに夜着を脱げば、お体に障って当たり前です。
だから今夜から部屋を暖めないまま交わることはお止めなさい、と。
その際陛下が部屋を暖めることを厭うようなら、夜のお相手はきっぱり拒絶しておしまいなさい、と。
いっそ不敬なまでの笑みを浮かべて、堂々のたまったのである。
――但し、彼女はこうも言った。


「そうすれば、皇帝陛下が貴女のことを心から厭うているのか…ただの人質として迎えただけの、形ばかりの妻であるのか否かが、多少なりとも見えてくるでしょう」


まるで全てを見透かしているかのように、実に楽しげに微笑みながら告げたのだ。
尤もそんなことを言われたところで、何がわかる筈もない。
何も見えてくる筈もないと、高を括っていたのだけれど。…だけれども。




*
*

「今朝…からだが少しだるかったので、宮廷侍医に看て頂いたところ、風邪を引きかけていると言われたんです。ここ最近急激に冷え込んだので、夜も極力部屋を暖めておくように、と」

卯ノ花女史に言われましたから、と。
畳み掛けるように説明すれば、途端眉間に刻まれた皺。
(うわ、怒った!?)
そう思って一瞬狼狽をした。
ところで、バサリと頭から毛布を掛けられる。
…おや?
「えっ?あの…陛下?」
「いいから!それ、頭から被っとけ!」
怒鳴りつけて。
焦ったように腕を取られる。
指先に触れて、冷たい…と。
呟いてから、面を上げる。
ピタリとおでこをくっつけてくる。
(ええええええ?!)







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