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Nothing but you 1
※『孤独の街角』のその後の2人



『待ちきれねえから迎え行く』


そう松本にメールを返し、戸締りをして部屋を出た。
それから駅に向かう道のりを歩くこと10分。
俺は前方から全力疾走してきた松本を、驚きと共にとっ捕まえた。
乱れる呼吸。乱れる金髪。

「と…しろ…」

今にも泣き出しそうな、青い瞳。
つか、酒入ってんのにヒールで全力疾走って、お前…。
「ンだよ、誰かに後でもつけられたのか?」
深夜過ぎではあるが、幸いこの辺りはでかい通り沿いで人通りもあるし街灯もある。
が、それでもやはり、女の一人歩きが危ないことに変わりはない。
もっと早くに迎えに来るべきだったか…。
チッと舌打ち混じりに辺りを見回した俺に、だが松本は「違うの…」と言って、徐に抱きついてきた。



…加えて言う。



ここは駅に程近い通り沿いで、まだ人通りも多く、車も引っ切り無しに走っていた。
当然、人目に付く。
「…オイ。離せって、この酔っ払い!」
苛立ち紛れに語気も荒く諌めてみるも、松本は俺の肩口に顔を埋めたまま返事をしない。身体を離す素振りも一向にない。
道往くヤツらがジロジロと好奇心丸出しの目で、俺達を眺めながら次から次へと通り過ぎていく。
(そりゃあ目立つに違いない。何しろ往来のど真ん中で金髪長身の女が自分よりも頭ひとつ分は背の低い明らかに年下のガキに抱きついているのだから)
俺はひとつ、これ見よがしに溜息を吐く。
出来ることなら今すぐにでもこの腕を引き剥したいところだったが、いつもと違う松本の様子に流石に躊躇したからだ。



*
*

「なあ…松本。どうしたんだ、お前?」
だが、問いかけたところで松本は答えない。ばかりか、ますます俺にしがみ付いてくる。
どうやら酒に酔って…では、なさそうだ。
(仕方ねえなあ)
更にひとつ。
深く嘆息した俺は、逆に松本の腰に手を廻すと、ぐっと抱き寄せ、俺の肩口に顔を埋めていた松本のくちびるを強引に掠め取った。
「んなっ…!?」
青い瞳をまんまるに見開いて一瞬フリーズした松本は、我に返ると実に色気のねえ声を上げながら勢い良く顔を上げ仰け反った。
だが…。
触れて気付いたが、いつもであればきちんと化粧直しされている筈の松本の唇は、色が剥げ落ち更には潤いもなく酷くカサついていた。
着飾るのが好きで、人一倍『女』としての身だしなみに気を使うこの女ににしては珍しいことだと思うと同時に、どう考えてもさっきまでの様子がおかしいことから、おおかた件の友人とやらと飲んでる時にでも『何か』あったか言われたかしたのどちらかだろうと容易に予想がつく。
そもそもこの女がここまでダメージを受け、(しかもこんな往来のど真ん中で)俺に縋り甘えるなんざ初めてのことではなかろうか?
(なんつーか…ムカつくな)
くだらねえことでうじうじと凹むこの女を見るのも。
くだらねえことでこの女をこうも凹ませたヤツが居ると云う事実も。
何もかもが、気に入らなかった。
「とー…しろ?」
だからゆるりと口角を歪めた俺は、俺の腕に捕らえられたまま尚も身を捩り逃れようとする松本のくちびるに再び深く喰らいついた。





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