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孤独の街角




どうせ、アンタもその子も遊びでしょ?
若い男のつまみ喰いも悪かないけど、程ほどにしときなさいよ。最後に泣くのはどうせ女の方なんだから。



そんなつもりはなかったけれど、だからって言い返すことも出来なかった。
だからただ、曖昧に笑ってその場を誤魔化した。
…話すべきではなかったのだ。
なのにうっかり口を滑らせてしまったあたしが悪い。
だからご親切にも忠告をしてくれたあの子はちっとも悪くなんてないし、ましてや、さっきから十五分置きに「遅せえ」とメールを送って寄越すあの子だってなんにも悪くはないのだ。


―九歳年下、九歳年上―


確かに『先』なんて見えやしない。
あの子の云う通り、こんな関係はもってせいぜい後三年と云うところだろう。
今はまだ高1のあの子もその頃には高校を卒業していて、多分大学に進んでいて…また、新たな世界を見つけているに違いない。
無論そこで新たな出会いだってあるに違い。
それこそ、他に気になる女の子だって出来るかもしれない。
…かつて、自分がそうだったように。
その時になっても、あの子はまだあたしを選ぶ筈。
なんて。
とてもじゃないけど、そんなおこがましいこと断言出来る筈もない。
だから「他に男を作んなさい」と、「年相応の男を選びなさいよ」と忠告してくれたあの子の言葉は決して間違ってなんていないのだ。
だけど、少なからず傷ついたのは事実でもある。





*
*

月明かりと街灯の中、ともすれば溢れてしまいそうになる涙を堪えてカツンカツンとヒールを鳴らし、脇目もふらず家路を急ぐ。
ブブブと携帯がバッグの中で新たなメールの到着を告げている。
パクンと音を立てて開いた画面には、冬獅郎の名前と『腹減った。いつ帰る?』の文字。


勝手気ままに独り暮らしの女の部屋へと上がり込み、我が物顔で居座る腹ペコぼうやの横暴な振る舞いに、ささくれ立った心がほんの少しだけ宥められた気がして思わず苦笑が漏れていた。
そういえばここ最近は残業続きでまともに買い物もしていないから、冷蔵庫には何も入っていなかった筈だ。
おまけに「週末は久々に学生時代の友達に会って呑むから」って冬獅郎には先に伝えてあったから、どうせ今週は家に来るわけないだろうって頭があったのだ。あの子の分の食事の用意なんてしていない。
だから『今、お前んち』ってメールが来た時は吃驚した。(そりゃ、合鍵は渡してあったけど…)
慌てて冬獅郎の携帯にかけ直したら「呑むっつっても『女』相手じゃお前、どうせ終電に間に合うように帰ってくんだろ?家に居てもつまんねえからお前の部屋で待ってる」って言われて、一方的に通話を打ち切られてしまったのだ。
おかげで一緒に居た件の友人から「誰よ、今の。新しい彼氏?」って散々追究されて白状して、結局呆れられて…挙句あんな忠告までされて、目下苦い思いをしているわけなのだけど。
…それでも。
言いたいことだけ言って一歩的に通話を打ち切りその後メールの一通も寄越さないくせに、こうして終電に乗り込んだ頃から再び、何度も何度もしつこいくらいに『帰れコール』を送ってくる勝手なようでいて実はさり気ない気遣いの出来るこの子のことが、あたしはどうしようもなく愛しくて仕方がなかった。

『今からコンビニ寄るけど、何食べたい?』

未だ重たい心を引き摺って。
それでも指は、軽やかに言葉を紡いでいく。
まるで何事もなかったかのように…ただ、平気な振りをして。





さて、お腹を空かせたあの子のために何を買って帰ろうかしらと再び震え出した携帯を取り出し、気持ちも新たにメールボックスを開いたあたしは赤面した上、絶句した。
それからちょっとだけ泣きたくなった。

(あたしも…はやく冬獅郎に会いたいよ)と。

あたしの送った『何が食べたい?』の問いかけに、あの子が寄越した短い返事は『お前』のひとことだったから。…だから。
立ち寄るつもりでいたコンビニをやり過ごし、あたしはあの子が一人で待つアパート目指して駆け出していた。


ただ、今は。
早くあの子に会いたかった。
あの生意気な顔で笑いかけて欲しかった。
ぐずぐずと燻るこの心ごと、その手で抱きしめて欲しかった。
身体中にぐるぐると黒く渦巻くこの不安を、その手で綺麗に消し去って欲しかった。


『待ちきれねえから迎え行く』



新たに届いたメールのそのひとことに、更に心は浮き足立つ。
ズキズキと痛む足の浮腫みすら気にならない程に。
ただ、逸る心が前へ前へとひたすらに、この両足を駆り立てていた。




end.


何ともやり切れない感の強いコネタですみません。今の私のやりきれん心境がやたら反映されてるなあ、これ;;
恋愛って楽しいことも多いけど、それ以上に不安だって悩みだって増えるんだよね、泣きたくなるようなこともあるよね、どうにもならんこともあるよね。9歳とか年の差あったら特に…。でも日番谷にはそんな松本の不安全てを吹っ飛ばすような男であって欲しいなと思ったんです。

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あきゅろす。
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