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13.



やがて泣き止んだ女を連れて、広小路傍の蕎麦屋を出たのは、それから四半刻余り後のことだった。
未だ躊躇う女に勤め先までの道案内を乞い、連れ立つように女の勤める料理屋に向かう。
店の主に俺が代わりに金を返す旨を申し出て、近々二十両、耳をそろえて返す約束を取り付ける。
ついでに、今日を限りにこの店を辞める旨も切り出した。
どうせこのままここに勤めたとしても、いつまた店を変われと言い出されるかわかったもんじゃなかったし、何より女自身もそれを懸念していた。
店への不信が女の中に、深く根付いているようだった。
だが女を色茶屋の女郎として縛り付けて置きたい考えでいた店の主は、当然のことだがこの申し出に大層驚きもしたし、渋りもした。
むしろ「余計なことを」とばかりに睨み付けられた。
それでも耳をそろえて金を返すと言われてしまえば、突っぱねる理由などある筈もなく。
最早大人しく引き下がらざるを得ないとばかりに、不承不承、金を受け取る旨を了承をした。
色茶屋へと勤めを換わる話もご破算となった。
尤も、店を辞めることに関してだけは、余程女の客受けが良かったからなのか、納得行かないとばかりにかなり憤慨してもいたのだけれど。
なかなか首を縦に振ろうとはしなかったけど。
幾ら引き止められたところで女自身にこの店で働き続ける意思がもう既にないのだから、これも渋々ながら受け入れるより他はなかったのだ。
「長らくお世話になりました」
頭を下げて、暇乞いをして。
漸く全ての話が纏まり店を後にしたのは、夜も遅くになってのことだった。







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