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12.


「その借金、俺が代わりに払ってやる」
「……は?」

決断は、思うよりも早かった。
何を言われているのかわからないと云った面差しで目を丸くした女の腕を引き寄せて。
「俺がお前を『自由』にしてやる」
解放してやる、今すぐにでも。
だから身売りなんて止めておけ、と。
強く断じる。
真っ直ぐ射抜く。
何を言われているのか、を。
漸く理解したのか、軽く女が息を呑む。
赤いくちびるが、微かに戦慄く。


「あ…たし、あんたにそんなことしてもらう義理とか、ないんだけど…?」
「ああ、そうだな。だから俺の気まぐれみてえなモンだ」
「…気まぐれ?気まぐれなんてもので二十両もの金をあたしのために用立てるって、バッカじゃない?」
「かもしれねえ。…けど、アイツと同じ苦界に身を落とそうとする女を見過ごすってのも、後味が悪リィ」
「なにそれ。ホント意味わかんないんですけど、あんた」
「いんだよ、別に。だからお前はアイツの代わりに、大人しく俺に助けられとけ」


言うが早いか女の目から、ほたりほたりと涙の粒が滴り落ちる。
言葉にならない嗚咽が漏れた。
「…うそ、みたい」
両の手のひらで顔を覆って声を詰まらせ、肩を震わせ女が言った。
止め処なく涙が零れ落ちた。
ほんの行きずりでしかない女の為に失う金は、決して少なくはないのだけれど。
ばあちゃんが残してくれた虎の子の金を、全て失うことにはなるのだけれど。
それでも心は酷く凪いでいた。
悔いるつもりは微塵もなかった。







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