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11.


「っな、なあに?」
心から驚いたような丸い瞳。
見据えて、有無を言わさず問うていた。
「…幾らだ?」
「へ?」
「お前の借金。幾らあるんだっつッてんだ」
「え?ちょっと、なんでそんな…」
「いいから!幾らあんだよ、お前」
尚も強く詰問すれば、ほんの少しだけ言いよどむように辺りへ視線を巡らせた女は、やがて拗ねたようにくちびるを尖らせポツリと言った。
「……二十両、だけど」
「二十…両?」
「っそ、そうよ!あたしだって吃驚したわよ。でも、薬料以外にもいろいろとお金が嵩んで、結局お葬式のお金もお寺へのお布施代も、ぜーんぶ掛かりをお店に立て替えてもらったんだもの!今更文句も言えないし、返せる当てもないしで、…しょうがないのよあたしだって!」
いきり立つような声音の中に、滲む不安と憤り。
揺らぐ瞳に苦界へと落ちる恐怖が見て取れて、息苦しいような焦燥に駆られる。
――二十両。
躊躇うように女が口にしたその額に、いろんな意味で驚かなかった筈がない。
たった二十両ばかりの金で、その身を苦界へと落とさなくてはならない女。
…憐れだと思う。
労咳の母親の為に身を粉にして働き、面倒を看て。
母親が亡くなった途端、店から背負わされた借金と共に、その身を苦界へと突き落とされる。
数多の男の食い物にされる。
…嘗ての幼なじみの少女のように。
(けど、この女なら)
この女なら、今の俺でも救ってやれる。
…女の抱える借金は二十両。
幼なじみの身請けの為にと、俺が用立てた金が、二十両。
ばあちゃんの残してくれた、この金を全て使いさえすれば…。
馬鹿げたことを考えている。
そう思わないでもないけれど。
ただの偽善に過ぎないと、思わないでもないのだけれど。…だけれども。






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