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6.


恐らくは、無理矢理のように身売りさせられた幼なじみを助けてやりたいと云う俺の気持ちを知っていたのだろう、ばあちゃんは。
亡くなる間際、…お前の好きに使うといいよ、と。
力ない腕でくたびれた小さな巾着をひとつ、俺へと寄越したのだった。
やけに重たい袋の中には、恐らく長年かけて貯めたのだろう、およそ二十両あまりの金子が入っていた。
驚かなかった筈がない。
何しろ二十両と云えば、大層な金額である。
そもそもそんな大金が、うちにあること自体に驚かされた。
息を引き取ったばあちゃんを前に、途方に暮れなかった筈もない。
何故なら今俺の手の中にあるのは、ばあちゃんがコツコツと蓄えてきた金なのだ。
これだけの金を貯めるのに、決して容易であったとは思わない。
だから幾ら俺が幼なじみを助け出したいからと言って。
幾らばあちゃんに、好きに使えと言われたからって。
この金を、おいそれと使っていいとも思えなかった。
ゆえに、迷いに迷って、考えて…。
漸くのように決心をした。
やはり決心は変わらなかった。
彼女を助け出したい、と。
思う気持ちは変わることはなかったから。
金はまた身を粉にしてでも働き貯めればいい。
そう自分自身に説得をして、ばあちゃんの位牌に向かって頭を下げて。
改めて、身請けの為にこの金を使わせて貰うと報告をした。
それから寺への掛かりや晦日の支払いで少しばかり金の減ってしまった巾着の中に、この三年、自分自身でやりくりをして貯めた二朱ばかりの金を加えて、…これならば・と。
浅はかにも吉原の大門をくぐって俺は、打ちのめされた。
器量の良さと、持ち前の朗らかさが禍したのか。
この三年の間で彼女は、売られた先で、御職を張るほどの女郎となっていた。
おいそれと請出し来ないような、目を瞠るような高値が彼女自身につけられていたことを知ったのだ。







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あきゅろす。
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