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3.


よもや引き止められるとは思いも寄らなかったのだろう、再び俺へと振り向いた女は、目をまん丸にして驚いていた。
だがそれ以上に驚愕したのは、むしろ俺の方だった。
――咄嗟の衝動。
そう決め付けるのは容易いけれど。
もしくは、単に。
…ただ、単に。
このやり場の無い憤りを誰かにぶち撒けてしまいたかった。
どこかにぶつけたかっただけかもしれない。
…そう思う。
あるいは腐り切ったこの胸の内を、ただの行きずりの女に見破られた――身投げする寸でのところを邪魔されたから、その腹いせだったのかもしれない。
待てよと腕を取り、引き止めて。
けれど驚いたように軽く目を瞠った女の顔を目の当たりにして、どうしていいのかがわからなくなって。
結局、逃げるように目を逸らしていた。
悪リィとその手を離したのだった。
自分でも、何故そんなことをしてしまったのかは良くわからない。
見ず知らずの行きずりの女と、行きずり男。
向こうにして見れば薄気味悪いだけに違いない。
てっきりそのまま立ち去るものと思われた女は、…けれど。
暫し佇んでのち、徐に俺の顔を覗き込むと。
「ね、アンタちょっと時間ある?」
お蕎麦でも食べに行こうか、と。
にっこり笑いかけたのだった。





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あきゅろす。
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