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1.


その日、両国橋の袂で俺は、二十両の金で女を買った。
ばあちゃんが残してくれた虎の子の二十両を、僅かひと晩で使い切ったのだった。
恐らくは、それゆえだろう。
「…後悔してます?」
事あるごとに、女は俺へと問い掛ける。
どこか憂いたような眼差しで以って。
ほんの少しだけ脅えたように、寂しげに。
――あの日。
二十両もの金で以って買い上げた女は、一年と云う歳月を経て今は、俺の女房となっていた。
尤も一緒になったのは、単なる成り行きゆえに他ならない。
金を返せる当てがないから、と。
だからどうかお傍に置いて、と。
あたしをアンタの女にして、と。
震える指で帯を解いて縋った女を、抗うことなく受け入れた。

――ただそれだけのことだった。






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あきゅろす。
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