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彼女はデリケート 1


ほんの二十分余り、あたしが席を外していた間の出来事だった。
彼氏が女を連れ込んでいた。
ベッドの上で、くんずほぐれつしているふたりを目の当たりにした。
――紛うことなき修羅場である。
(これ、怒ってもいいところよね?)
そう思いつつも、決して取り乱すようなことはない。
(尤も、恋人たる男の方はと云えば、顔面蒼白。見るからに取り乱しまくっていたんだけど)
でもまあそれも当然だろう。
ここであたしが取り乱すわけにもいかないのだ。
何しろここは学校内で、しかも場所は保健室。
あたしはこの保健室に席を置く、所謂『養護教諭』であって。
目下浮気真っ最中のあたしの男に至っては、この学校の生徒のひとりなのだから。
これでは幾ら胸中動揺しようと、修羅場に直面していようと。
相手が生徒で、あたしが教師じゃ、そもそも怒りを顔にも声にも出せる筈もない。
仮にこの子の浮気を今ここで、あたしが幾ら責め立てたところで、周りからモラルを問われた挙句に非難を受けるのは、この場合。
先ず間違いなく大人で教師たるあたしなのだから。
だから煮えくり返る腹の中を押し隠し、殊更にっこり作り笑いを浮かべる。
厭味たっぷりに恋人に向けて、殊更にが〜い苦言を呈する。


「何度言ったらわかるのかしらね、日番谷くん。ここは保健室でラブホじゃないのよ。カノジョとそーゆーことがしたいんだったら、それ相応の場所へ行ってやってちょうだい」


わざとらしくも、殊更『カノジョ』の部分を強調したら。
「なっ…!違げえ!!」
慌てた様子で即座に否定をされたのだけど、あたしはそれを華麗なまでにスルーして、もう片方の当事者たる少女の方へと向き直る。
「あなたもよ。あたしとしても、恋人同士のことにいちいち口出ししたくもないんだけどね。時と場所とはちゃんと弁えなさいね。…だいたいあなた、まだ教育実習の最中でしょう?」
こんなことしてたらだめじゃないの、と。
言葉厳しく咎めれば、ほんの少しだけ臆した様子で「はい、すみません」と詫びてから。
逃げるようにあたしから目を逸らす。
少しだけ乱れた服装を正す。
そんな彼女を見下ろしては、あたしは胸中溜息を吐く。







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あきゅろす。
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