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12.


「そんな風に言っていられるのも、どうせ今の内だけだもの。どうせもうあと一年と経たない内に、アンタもあたしのことが邪魔になる。その存在を鬱陶しいとでも思うようになる。だからその前に出て行って、妻の座を明け渡そうと思っただけよ。アンタがいずれ、どうとでも出来るようにと思っただけ」
元々あたしみたいな三つも年嵩の、嫁に貰ったところで何の得にもならないような行き遅れの女が、あんな大店に嫁ぐべきじゃあなかったのよ、と。
投げやりに笑ったあたしに、あの子の顔が大きく歪む。
「俺がお前を邪魔になんて…思うわけがねえだろが!」
「なるわよ。無事に子どもが産まれたらきっと、アンタの中の比重は大きく逆転する」
目を、逸らし。
口にした途端、大きく瞠った。冬獅郎の両の眼が。
それをあたしは見たくなかった。
本当は。
そんなことが言いたかったわけじゃない。
冬獅郎を突き刺した刃は、同時にあたしの胸をも深く抉る――諸刃の刃に違いないから。
「…何、の。話だ?」
「今更隠し立てなんてしなくていいのよ、…全部知っているんだから。アンタが吉原の小見世から落籍した女をひとり囲っていることも。その女が、アンタの子どもを身ごもっていることも」
「っ!!」
その瞬間、あからさま過ぎるほどに冬獅郎が狼狽をした。
血の気が引いたように青ざめた。
掴む腕の力までもが抜けたようだった。

――あたしはとうとう自由になったのだ。






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あきゅろす。
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