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11.


(ねえ、だってそれは過去の話なんでしょう?)
今のアンタには、もっと大事なひとが出来たんでしょう?
…何も知らないと思っているから?
だからまだそんな大層な口が叩けるんでしょう?
そう思ったら、何だか急に可笑しくなって、気付けば涙の代わりに笑みがこみ上げた。
だってあんまりバカバカしくって。
あんまり滑稽だったんだもの。
「らん…ぎく?」
訝るようにまた名を呼ばれ、大仰を装い溜息を吐く。
何と答えるべきかを考えあぐねる。
――冬獅郎のことが決して嫌いになったわけじゃない。
けれど今、何を口にしたところで、どうしたってそれは恨み辛みへと変わってしまう。
あたし以外の女へと、心を移した冬獅郎への。
亡くしてしまった小さな命への。
嘆き悲しみへと変わってしまう。
…例えどんなに取り繕うとしたところで。
だから、諦めた。
出来れば綺麗な想い出だけをこの子の心の中へと残して、後を濁すことなく去って行きたいと云うささやかな望みも、わがままも。
すべて諦めて、あたしは小さく溜息を吐いた。







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あきゅろす。
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