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9.


「嫌っ!」
「…乱?」
どうした、と。
訝るようなその問い掛けに、ハッと我に返って、ごめんなさい…と。
口先だけの侘びを口にする。
けれど間の悪いことに、僅かに後退った際あのひとの足が、『手紙』を置いた卓袱台へと当たったのだ。
その震動で、ひらりと手紙が畳に落ちる。
落ちた手紙をあのひとの足が、ぐしゃりと音を立て踏んだのだ。
「…手紙?」
手に取って。
宛名が自分であることに気付いたらしいあのひとが、中を確かめるべく手を伸ばしたのを見咎めて、ザッと全身から血の気が引いた。
待って!見ないで!!と。
慌てて制するように腕を伸ばすも、一瞬素早く手紙を開く。
その目が文字を追ってゆく。
徐々に顔が気色ばんでゆく。
(嗚呼!)
恐らく、は。
一瞬にして察したのだろう。
それがあたしの宛てた手紙であることに。
そうしてその内容までも。
あたしがこのままこのひとの前から姿を消すつもりでいることまでも、何もかも…。
「――どういうことだ」
問い掛ける声は掠れて低く、また酷く苛立ちを交えたものでもあった。
「家を出るだと?縁切りしてくれて構わねえだと?好きに後添えを据えろだと!?…ふざけんな!!なんでそんな話になってんだ!?」
まるで泣き出す一歩手前のような顔をして、再び強い力で腕を掴まれる。
掴まれた腕が、きしりと鈍い音を立てる。
指先が肉に喰い込んでいる。
「い…った、」
思わず漏れ出た呻き声。
けれどあのひとの腕の力が弛むことはない。
ばかりか、尚いっそうのこと強い力で掴まれた。
抗うことすら叶わぬほどに。
まるで逃すことを恐れるように。






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