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7.



つくづくどこにでもお節介な人間てのはいるものだ、と。
今度のことで嫌ってほどに思い知らされた。
一見親切に見せかけた、悪意たっぷりのしたり顔で以ってあたしに教えてくれたのは、以前冬獅郎へと懸想していた雑穀問屋のお嬢さんで、過去には縁談話を持ちかけたこともあったらしい。
尤もけんもほろろに断られ、結局その後、両国広小路傍の大きな質屋に輿入れをしたと聞いている。
その質屋から然程離れていない新道にある、黒板塀で囲まれた古びた一軒家へとあのひとが、それとわかる女を囲って足繁く通っているのだ、と。
教えられて血の気が引いた。
すぐには信じられなかった。
けれど、嘘じゃなかった。
本当だった。
この目でしっかり見てしまったのだ。
その家に住まう若い女と、その女の元へと通うあのひとの姿までも。
…ああ、本当なんだ。
あのひとは、あたし以外の他の女にやはり心を移したのだ、と。
まざまざと思い知らされて、人知れず何度も涙を流しては打ちひしがれて…。
それが災いしたのだろうか。
腹に子が居たことも知れず無理をしたからか、あっさりその子は流れてしまった。
あのひとに。
明かすことさえ出来なかった。
その瞬間、苛まれたのはぽっかりとした喪失感。
最早ここに自分の『存在理由』が見出せなくなってしまったのだった。






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あきゅろす。
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