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4.



「あたしを哀れんでくれる気持ちはありがたいけど、アンタと祝言なんて無理な話よ。そもそもアンタのお父っつあんやおっ母さんが、あたしとなんて承知しないでしょうよ。だから、」
だから帰ってちょうだい、と。
切り出そうとしたところで遮られた。
同情なんかのつもりはねえぞ、と。
「…じゃあ、何だって言うのよ?」
震える声で問うた先。
一分の揺らぎも見せずに、真っ直ぐあたしの顔を見据えてあの子は言った。

「ガキの頃からアンタに惚れてたからだ」と。

「これまでは跡目のことがあったから、黙って指を銜えて見ているより他なかったが、あんたが家を失くして背負うものがなくなった今なら、やっと縁談の話を持ちかけることができると思ったんだ」と。

熱っぽい目をして語った冬獅郎は、尚も戸惑うばかりのあたしの手を取ると。
「嫁に迎える女はとうに心に決めてあると、親父もおふくろも承知の上だ。だから後は姉さんの心ひとつだけでいい」
驚くべきことに、そう言って。
触れた手のひらでぎゅうと固く握り締め、あたしに向けて頭を垂れた。
そうして、頼むから嫁に来て欲しいのだ、と。
俺と祝言を挙げて欲しい、と。
畳に頭をこすりつけるように、平身低頭あたしとお父っつあんへと乞うたのだった。






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あきゅろす。
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