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3.


訝りながらも座布団を勧めて、茶を振舞う。
それに冬獅郎が手土産にと持って来てくれた大福をひとつ、一緒に添えた。
「…で?今日はいったいどうしたのよ」
お客さんが途切れた頃合を見計らい、切り出したあたしに冬獅郎は少しばかり戸惑いながらも、件の祝言の話を切り出したのだ。
無論、驚いた。
からかっているのかと訝りもした。
若しくは同情なのかと思って悲しくもなった。
火事によって財を失い、家族を失い。
奉公人も、許婚までをも失った。
よもや、そんな哀れな女に同情を寄せているのだろうか?
そう思うと悲しくもあったし、悔しくもあった。
それに冬獅郎は大店の総領息子で、男っぷりでもその見事な仕事っぷりでも大層有名だったから、縁談の話だって早いうちから引きも切らないと噂に聞いていた。
(それが、どうして?)
こんな家も財も無いに等しい、況してや三つも年上の。
もう間もなく二十一にもなる行き遅れの女を、好き好んで嫁に貰おうなどと思ったのか。
あたしもお父っつあんも、全く理解が出来なかった。
――否。
あの火事さえなければ…。
あの火事さえなければ、もう後一週間後には、四つ年上の店の手代を婿に迎えている筈だったのだ。
今頃あたしも『妻』と呼ばれる立場であったのに…。
そう思うとどうしたって、己の不運を嘆かないではいられない。







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