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3.


*
*


「…んぅ、お、さま…?」

すると目が覚めたのか、松本が薄っすらと両目を開く。
ぼんやりと覚束ない目で俺を捉える。
手を伸ばす。

「悪リィ、起こしたか?」
「いえ、へーきれす」

舌っ足らずに言ってのち、伸ばされた腕は俺を捕らえる。
おかえりなさい、と。
寝具の中に抱き寄せる。
「まいばんまいばん遅くまで…たいへんですねえ、おーさま」
欠伸混じりの労いの言葉には、さすがに苦笑が浮かびもしたが、薄い夜着越し感じるやわらかな胸のふくらみは、酷く心地良く悪い気はしない。

「そう云うお前こそ、豪く疲れてるみてえじゃねえか。寝ながら眉間に皺寄せてたぞ」
「うう…だってきびしーんですもん、七緒ったら」
「ああ、まあ…伊勢は真面目だからな」
「ええ、あたしの為を思って厳しくしてくれてんのはよーくわかるんですけど、たまには飴の部分も見せてほしいかなー?って」

むにゃむにゃ言ってる松本の目は、再びとろんとまどろんでいる。
うとうとしながら胸へと抱き寄せた俺の髪を指で梳く。
(まるで抱き枕扱いだな)



およそ『男』と意識していない…見做していないと思しき一連の松本の態度に「面白くない」と不満は募るが、下手に警戒をされるよりまだマシだろうと思い直す。
少なくともこの二ヶ月余り、ひとつベッドで俺と眠ることを松本は、決して厭わなかったのだから。
夜毎の共寝と、戯れ。抱擁。
時に顔を近づけあって交わすおしゃべりは、実に楽しく俺を高揚させた。
――但し。


「いい子ですよね、七緒。公爵家のお嬢さまで、頭が良くって綺麗で性格も真面目で…。せっかくなんだから、あーゆー子を王妃さまにお迎えしたらどうです、おーさま?」


これだけはどうにも聞き捨てならねえ。






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あきゅろす。
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