[携帯モード] [URL送信]
9.


はい、そうです。…なんて。
素直に答えてもいいものかしら、この場合。
うぐぐと唸るあたしをちらりと横目に眺め、軽く肩を竦めた王様は。
「まあ、お前がそーゆージジイの餌食になりてえっつーんなら俺ァ止めねえけどな」
などと幾分投げやりに言うものだから、思わず「そんな筈あるワケないじゃないですかあ!」と。
気付けば否定を口にしていた。叫んでいた。
――その、瞬間。
はたと我に返って、慌てて口を押さえるも。
時既に遅し。
「見ろ。やっぱ嫌なんじゃねえか」
詰るように指摘をされて、逃げるように視線を逸らす。
くちびるをぎゅうと噛み締める。
それを見て、あのひとはふうと溜息を吐いた。




「親父が死んだ今、周りのヤツらがお前に何を吹き込んでいるかぐらい、想像に難くない。けど俺は、アイツらの言いなりになる気は毛頭ねえよ」

王妃になる女ぐらい、テメエで選んでテメエで決める、と。
はっきりのたまったあのひとは、少しばかり窮屈そうにシャツの襟元を軽く緩める。
整えた髪を指先で散らす。
…だけど、ね。おーさま。
「それ、言ったらあたしもおんなじですよ。亡くなられた前国王様が勝手に決められたお妃候補なんですもん」
零落貴族の娘で、後ろ盾もなければ親もいない。
況してや頼れる親戚もいないし、屋敷すらも失って。
あまつさえ十五の彼より五つも年かさ。
加えて王様よりあたまひとつ分ほど背が高いときている、つくづくありえない尽くしのお妃候補、だとおもう。
こんな女じゃ王様だって、本心では「冗談じゃない!」って思っていることだろう。
だけどこのひとは素直だから。
やさしいひとだから、行くあてもないあたしを放り出すようなこともできないに違いない。
このまま見捨てられないってだけのことなのだ。






[*前へ][次へ#]

10/20ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!