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5.


(いやいや、そうじゃなくってですねえ)

弱ったことに、父君である前国王様を心から尊敬していたこのおうさまは、遺言どおりにバカ正直に、あたしとの結婚を履行しようとしているらしいのだ。
(うわあ、もう!ホントどーすんのよ、あたしっ!!)
幾ら父王の悲願だったからって、肝心要のその王様は、ひと月も前に亡くなっているのだ。
こんなはちゃめちゃな結婚なんて、白紙に戻してあたしを城から追い出して、もっと分相応な家柄のお妃様を迎えた方が、ぜえええったいにいいに決まってる!
このひとの為になるに決まってるのだ!!
そんな簡単なこと、単に巻き込まれたに過ぎないある意味被害者たる一般市民のあたしにだってわかるんだから、この国の中枢を取り仕切るお歴々の面々からしてみれば、腸煮えくり返って当然だろう、この事態は。
(だいたい家柄云々を抜きにしたって、この若さで五つも年嵩の奥さんて…。どう考えても迷惑でしょうよ)
なのに口にも顔にも出さずにいるのは、…多分。
このひとの優しさゆえ…なんだろうなと思いつつ、それについひっそりと項垂れてしまうのは。
あたし自身はこのおうさまのことが、決して嫌いではないからなんだ、と。おもう。
(嫌いじゃないってゆーか、むしろこれでおうさまなんかじゃなかったら、ちょっと本気でお嫁さんにして欲しいなあ…とか)
うっかり思っちゃうぐらいには、好意を抱いているからに他ならない。
だってこのひとってばまだ十五と年若くはあるけれど、清廉潔白で凛としたところも、博識なところも、紳士たる態度も実に好ましく、顔立ちだって(言っちゃ悪いけど)とってもカッコ可愛らしい。
――うん、まあ…愛想はないけどね!
それこそ眉間に皺寄せた、しかめっ面がデフォですけどね!
年の割りにちみっ子だけど、未だあたしの肩口ぐらいまでしかない身長だって、なんだかんだで愛らしくおもう。
尤も、おうさま側からしてみれば、自分より五つも年かさで、背だって自分より高い貧乏貴族出のお嫁さんなんて、迷惑以外の何ものでもないんだろうなとわかっているのよ。あたしだって。
あのひとにすれば、これが不本意さながらの結婚なんだろうなってことぐらい、ちゃあんとわかっているのよ、あたしだって。
だからやっぱり大臣たちのけしかける通り、早々にここを出て行くのが最良なんだろうな。
自由の身に戻してあげることが最良なんだろうな。
王様の前で正妃になることを自ら辞退すれば、その後の嫁ぎ先でも職でも何でも新たに儂が見つけてやろうと言った、宰相の言葉に従った方がいいんだろうなと思って溜息を吐く。






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