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2.


「…ええっと、お茶でもご用意しましょうか?」
「ああ、頼む」

そう言って。
あたしより五つ年下の――今やこの国の立派な若き王様となった彼は、嘆息混じりにふかふかの長椅子へと腰を下ろした。
どうやらお疲れのようである。
(それはそうだろう)
何しろ長く病床に就いていた前国王様がつい先だって亡くなられ、王の座を引き継いだばかりなのだ。
三ヵ月後に控えていた筈のあたしと王様の結婚式を、誰よりも楽しみにしていたと云う前国王様の願いは結局、とうとう叶わぬままに潰えてしまったのである。
――そう!
驚くべきことに、身分違いも甚だしいこの結婚を誰よりも強く望んでいたのは、…他でもない。
亡くなられた前国王様ご自身だったのだ。
何でも亡くなったあたしの母と前国王様は幼なじみで、幼い頃から結婚の約束を交わしていたらしい。
それがどこまで本気であったかはわからないけれど、こうして話を聞く限り、王様は本気…だったんだろうな。
けれど身分が違い過ぎるからと、結局ふたりの仲は引き裂かれ。
母は子爵であった父の元へと望まれて嫁ぎ、王様は隣国の姫君である王妃様と泣く泣く結婚したのだと云う。
それゆえに、自分の息子たる王子様と、嘗ての恋人の娘たるあたしを、どうあっても結婚させたいと思ったらしいのだ、あの王様は。
(うわあ、なんっって傍迷惑な…!)
せめて互いの子供たちに願いを託して結婚させたいとかって、いい年こいて、どんなロマンチストですか?
言っちゃ悪いけど、そこはもうちょっと…国益優先に考えましょうよ、王様!
そう思って項垂れた。
なんてゆーか、…正直カンベンして欲しいとも思った。
だからと言って、王様相手じゃ到底断ることも出来やしない。
例え周りのお偉いさん方がどんなに反対していようと、静かな敵意をあたしに向けようと。
あたしを含め、その場にいる誰ひとりとしてその命令に逆らうことは出来なかったのだ。






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