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1.



夜半過ぎ。
突如響いたノックの音に、ビクリと大きく鼓動が跳ねた。
…ノックしたのが誰か、なんて。
今更問うまでもないことだった。
声すら出せずにいる間にも、無遠慮に開かれた扉の向こう、顔を覗かせたのはこの城の主に他ならない。
少し癖のあるやわらかな銀糸と、翡翠の瞳。
まだ幼い顔立ちをしたその少年は、この国の若き王様に他ならない。
そしてあたしはと云えば、この王様の、未来の奥さんにあたるらしい。
…らしい、とは。これ如何に?
と云う感じではあるのだけれど、その辺りの事情からしてあたしにも既に良くわからない。
そもそもあたしはどこぞの国のお姫様でもなければ、爵位の高い貴族のお嬢様でも何でもない。
否。
曲がりなりにも貴族の出自ではあるのだけれど、最早それも今は昔のこと。
然して力も持たない上に、人の良すぎたあたしの父は、悪意ある周囲に利用されて事業を失敗。
ゆえに、家は没落同然のありさまだった。
当然親戚連中からは見放され、手を貸してくれるひともいないまま、多額の負債を抱えたままに。
肺を患い一昨年亡くなった母の後を追うかのように、この春父も亡くなった。
おかげで多額の借金と共に今や天涯孤独の身の上となったあたしは、屋敷を追われて最早、身売りするより他ない事態に陥っていた。…筈、なのだけど。
気付けば大きな馬車へと拉致られて、この城の中へと迎え入れられていた。
しかも、この国の第一王子のお妃候補のひとりとして。
(なんってゆーか、…シンデレラ?)
いやいや、それにしたって二十歳過ぎってこの年齢じゃあ、シンデレラとしては如何せん薹が立ち過ぎている。
(しかも、なんっっであたし?!)
だいたいこの国の第一王子と云えば、御年十五じゃなかっただろうか?
五つも年かさの…それも没落した子爵家如きの娘を王妃に…って。
どう考えてもありえないでしょう。
普通、もっとこう…後ろ盾のある有力貴族とか他国のお姫さま辺りを選ばないか?と思って、何がなにやらわからなくなった。
わるいゆめだとおもったのだった。
けれどそんな現実逃避も然程長くは続かなかった。
お城へと拉致られたその後すぐに、病床に就く国王様の元へとあれよあれよと連れていかれた挙句、いきなりの如く手を取られ、何故か「息子を頼む」と託された。
何でだかものすっっごく優しくされた。
(いやいや、ホントに意味わかんないんですけども!)
まるで理解の及ばないまま、あれよあれよと云う間にあたしは。
針の筵のようなこの城の中で、若き王子の妻となるべく、軟禁生活を強いられることとなったのだった。






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