[携帯モード] [URL送信]
策士策に溺れず 1



冬獅郎と連れ立って、乱菊さんがバックヤードに姿を消したのを見届けてから、やれやれとばかりに肩を竦める。

「おつかれさま」

くすくすと笑う井上に、小さく片手を上げて「ワリィ」と詫びて。

「それと、このこと…オーナーには…」
「わかってる。叔父さんには内緒にしとくよ」
「恩に着る」

一番の気掛かりが消えたことにホッと安堵した。
(まあ、乱菊さんの手前あんな風に言っちまったけどな。やっぱ無断で部外者中に入れたなんてオーナーにバレたらやべえもんな)






まあ、察しの通り――あのバカが今日シフトに入ってねえのは、『今日』が乱菊さんの誕生日と知った上でのことである。
乱菊さん本人はどうやら忘れているようではあるが、実は前に一度、九月二十九日が誕生日だと俺らに話したことがあったのだ。
つっても、俺はそんなことすっかり忘れていた。
憶えていたのは当然、冬獅郎だ。

――恋する男とは、斯くも執念深いものである。

誕生日と云うイベントに乗じて何とかもう一歩前進したい。
あわよくば乱菊さんとお近づきになりたいと云うヤツの切なる目論みに、…仕方ない。
俺と井上が加担してやったと云うわけだった。
いろいろ話し合った結果、乱菊さんへの『印象付け』の意味もこめ、値段的にも気持ち的にも然程負担にならないようなちょっとしたプレゼントをあげてみたらどうだろう?と云うことになったのだけど。
彼女に近付く為にと『スイーツ好き』を装うこのバカと違い正真正銘甘いもの好きな乱菊さんだから、ちょっと名の知れたケーキ屋のプリンとかケーキとかはどうだ?と。
渡すプレゼント自体はすぐに決まった。
オーナーに言って休みももらった。
何かあった時のためにと、代わりのバイトを井上に指定することも忘れなかった。
だが、問題はどこで渡すかと云うことだった。

(つっても、この店以外にねえだろ?ってのが正直なところだったんだが)

まあ…それでもさすがに『誕生日』だしな?
そんな日に、そもそもコンビニなんぞに寄るかどうかが甚だ疑問だと冬獅郎は言ったのだけど。
むしろこの『計画』自体に、少しばかり及び腰になっていたようだけど。
だいじょうぶだ!と、強引に押し切ったのは俺だった。


つか、ぜってー来る!!
誕生日だからこそ、ぜってーお前に会いに来るから、勝負に出ろ!!


イマイチ半信半疑な冬獅郎をそう説得した反面。
やっべ、これで店に来なかったらどうすっかなーとも、内心思っていたのだが。
そんな心配は杞憂に終わった。
いつも通り店へとやって来た乱菊さんは、店内に足を踏み入れてすぐ冬獅郎が休みであることを悟るや否や、正直…見てるこっちが同情したくなるほどに、あからさまなまでに落胆をした。
見事に落ち込んだのだった。

(まあ、すぐさま表情持ち直したのはさすがだと思ったけどな)







[*前へ][次へ#]

15/37ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!