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SWEET PAIN 5


ハァと溜息を吐いた黒崎少年は、先ずあたしに向き直ると、開口一番「あ、誕生日おめでとうございます、乱菊さん」とのたまったから、これにまたあたしは仰天をした。

「て・ゆーか、なんっっで黒崎くんまで知ってんのよ、あたしの誕生日!」
「や、こんな狭い店内で、ンなデカイ声で話してりゃ嫌でもレジまで聞こえますって」

だけどその理由はすぐに知れたから、今更ながらに羞恥を覚えて慌てて周囲に目をやるも、生憎あたし以外にお客さんの姿はない。

「なあに?相変わらず暇なコンビニねえ」
「ちょ…こう見えて乱菊さん達が来る前までは、結構忙しかったんスよ。…なあ、井上?」
「う〜ん、それはどうだろう?」
「って、オイ!」

レジに向かってツッコミを入れた黒崎少年の問い掛けに、けれどカウンターの向こうからこっちを眺めていたと思しきバイトの彼女は(どうやらこの子の名前は『いのうえ』らしい)、随分素気無いことを言う。
その邪気無いやり取りに思わず噴出してしまったあたしに、わざとらしくも「コホン」とひとつ、咳払いをして見せてから。
改めて黒崎少年は、とーしろーくんの手にあるプリンの入った紙袋と、それを突きつけられて当惑しているあたしの顔とを見比べるように見やってのち、何とも苦い笑いをその口元に浮かべると。
「乱菊さん」
と、あたしに向けて向き直る。


「なによう?」
「コイツの持ってるこれなんだけど。もし迷惑とかじゃあねえんなら、もらってやってくれねえかなあ?」

俺からも頼むよと言いながら、指差したのは勿論とーしろーくんの手にある件の紙袋である。

「日々の売り上げ貢献と、俺らの暇潰しに付き合ってくれてるお礼も兼ねて、ってことでどうッスか?」
「ど…どうッスか?って…」

いきなりそんなことを言われても!
そもそもあたし、売り上げ貢献なんて言われたところで、日に幾らも使ってるわけじゃないのよ。
金額的にいったらむしろ、微々たるものに過ぎない方だと思うんだけど。
それに連日このコンビニに通ってる理由だって、とーしろーくんと云う下心あってのものなワケだし、むしろそんなとーしろーくんに付き合ってもらって喜んでるのって、あたしの方だと思うんだけど?
あと、正直なところなんっで黒崎少年が、あたしにプリンもらってやってくれ・なんてことを言い出したのかとか、ちょっと気になったりもしてるんだけど。


「…これ、とーしろーくんが食べたくて買ったプリンなのよねえ?」
「んー。まあ、一応」
「なのに、いいの?あたしなんかがもらっちゃって、ホントにいいの?」
「ぜんっぜん。ここのプリン、すげー美味いって聞くし、松本サンに食ってもらえたら俺も嬉しい」

そんでまた今度、食った感想でも聞かせてよ、と。
屈託なく笑うその顔に、釣られるようにあたしもおずと腕を伸ばしていた。

「…ありがとう」 と。






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あきゅろす。
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