15.冬獅郎(十六歳)
――けれど、今。
彼女はこうしてこの腕に在る。
自ら俺の袖を引くように、出合茶屋へと俺をいざない、その身を俺へと差し出している。
あれほど焦がれ、手に入るはずもないと思って諦めていた女の身体を、今、こうして床へと組み敷いて。
その肌にこの手で触れている。
この舌を這わせて蹂躙している。
あの夏の日に触れた白い胸乳に、再び顔を埋めている。
(夢か?)
(現か?)
(幻か?)
脳裏を過ぎる自問に、だが答えが戻ることはない。
それでもこれが夢であると思えば思うに、目覚めることが空恐ろしく、先へ先へとからだは先走る。
ならば、目覚める前に抱いてしまえと、どうしたって手荒にもなる。
これが現であれば現であったで、ならば気の変わらぬうちにと焦ってその身に自身を埋めたくもなる。
そもそも祝言まで残りひと月を切った今この時に、何故俺に抱かれることを乞うたのか。
もしや自分を捨てた男の身代わりなのかと思えば、睦言ひとつ口には出来ない。優しくなんてしてやれない。
そうして焦燥に駆られるがままに腕の中のおんなを抱いて。
漸く我に返ったのは、全てを終えて、事切れたように敷布へと沈んだ彼女の涙を目の当たりにした時のことだった。
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