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2.冬獅郎(十一歳)


――八幡様にお店が出てるから一緒に行こう。

言うが早いか俺の手を引いて、危なげに下駄をつっかけ駆け出す女。
――楽しみだねえ、冬獅郎。
満面に笑みを浮かべて俺を振り返る。
人混みの中、はぐれないようにと繋いだ俺の手を握りなおす。
手を引かれて歩かなくてはならないほどに幼いつもりはないのだけれど、繋がれた手を振り払うことは躊躇われた。
子ども扱いされているのだ、と。
わかっていながら、腹立ちながら。
それでも触れる女の指先が、酷く心地良かったからに他ならない。
ほっそりとした白い指。
頼りなくやわらかなその感触は、否応にも俺にあの夏の抱擁を思い起こさせた。
目の当たりにした豊満な乳房。
その谷間へと抱き寄せられて、匂い立つ女の色香に眩暈を憶えた。
しっとりと吸い付くようななめらかな肌。
あけすけに見せた艶冶な肢体も、張りのある乳房も。
間もなく親方の下で下駄職人の見習いとして働き始めた俺が、もう二度と。
目にするようなことはなかったけれど。

…今も、まだ。
(午後の縁先へとたらいを出して水を張り、人目を忍んで行水に耽っているのだろうか?)


繋いだ手。
前を行く女の白いうなじを目で追いながら、埒も無いことをただ考えていた。





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