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こうして僕の恋は終わった 3



元・生徒だった日番谷と、一線を越えて今に至ってはいるものの。
だからと言って、これと云った大きな決め手があって付き合ったと言うワケでもない。
そもそも付き合うきっかけひとつ取ってみても、これまであたしに言い寄ってきた数多のガキんちょ共と大差はない。
事実、「なんであたしに?」と、問うたところで。
日番谷から返ってきたのは。
「高校の養護教諭なんかやってるにしちゃあ豪くハイレベルな女だったから興味が湧いた」
と云う実に可愛げのない、且つありふれた理由に過ぎなかったのだから、今、表で遠巻きにあたしを挑発している件の少年と然したる相違があるとも言えない。
物珍しさから湧く、興味本位と好奇心。
あとは、年上の女に憧れる『年頃』ってのもあるのかしら?
いずれにせよ、どうせ一過性の衝動よねえと思っていたから相手にするつもりなんて微塵もなかった。…あたしにすれば。
それでも堕ちた。
最終的にはその手を取って、明け渡したのだ。このからだを。
それも、生徒としてでなく。
教師としてでなく。
ただの男として。女として。
それはただ単に、今よりあたしが二歳ほど若く、その分倫理的にも道徳的にも考え方が緩かったからに他ならない。
また、日番谷があたしに言い寄るほかのコドモよりもほんの少しだけ用意周到で、狡猾で。
尚且つ、あたまひとつ分飛びぬけるぐらいには『あたし』に執着をしたからに他ならない。
軽口紛れの口説き文句をのらりくらりとかわすあたしを、言葉巧みに追い詰めて。
気付けばすっかり逃げ場を失っていた。
気付けば陥落させられていた。
と云うより、面倒になったのだ。
ああ、まあ…この子も随分粘ったしねえ?
別にあたしもカレシがいるってワケじゃないしねえ?
だから、まあ…一度ぐらいなら道を踏み外してみてもいいかなあ?って。
思って根負けするようなかたちで以って、その手を取って赴いたのだ。
傍らに在るベッドへと。
まあ、一度相手したげたらさすがに気も済んで、案外大人しく引くんじゃないの?とも思って高を括っていたのだけれど。…実際のところ。
そんな魔が差したままに始まったようなこの関係が、足掛け二年と続くとはよもや思いも寄らなかったのだけれど。
それこそ、愛だの恋だのからは程遠い、ほんのちょっとの暇潰し。
成り行きだけのお付き合い。
(身体に飽きたらどうせ、すぐに離れていくんじゃないの?)
なあんて思って悠長に構えていたんだけれど。
(あー、こんなつもりじゃなかったんだけどな)
たまにそう思わないでもないけれど。
(生徒とどうこうなるつもりなんて、これっぽっちもなかったんだけどな)
むしろ一番避けたいパターンだったんだけど。
それでも危ういながらも気付けば彼是二年近くもこの関係を続けているのだから、当事者たるあたしが何より一番驚いている。

「なんだよ、バイトが休みになったからせっかく会いに来たっつーのに。冷てえなあ」
「あたりまえでしょ。こんなとこ誰かに見られたらどうしてくれんのよ」
「生徒じゃねえんだ、今更問題ねえだろ」
「だ…から、そーゆー話じゃないっつの!」

養護教諭の立場で保健室に堂々男連れ込んでました、なんて。
万が一にも見られたら洒落になるかってのよ、アホ。
うがあ!と叫んだところで、…だけど。
にんまりと酷く意地の悪い笑みをその口元に浮かべた日番谷は。



「残念だったな、もう見られてんぞ」



と、極・穏やかに耳打ちをした。
…から、目を瞠る。






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あきゅろす。
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