[携帯モード] [URL送信]
夜の月、昼の月 2


お前の気持ちには到底応えてやれないのだ、と。
あたしの気持ちに気付いてやれず悪かった、と。
その、たった一言に全て含めてあのひとは今、部下であるあたしに頭を下げていた。

…涙が出そう。

わかりきっていた答えにも、これだけ胸が痛むなんて。
自分はいったいどうしてこんなにもこのひとのことが大事になっていたんだろう。
(ほんと、嫌になっちゃうわ)
どうして報われない男ばかりをあたしはいつだって好きになるんだろう。
(ああ、いけない)
感情だけが先走る。
ツンと鼻の奥が痛んだ。
けれどあたしは、何も困らせたいわけじゃない。
何かを強請るつもりも、あたしへと振り向いて貰いたいわけでもない。
…それに。
あたしは遥かに年上の『大人の女』だ。
例え心で泣いても、顔は笑って線を引こう。
この気持ちに潔くピリオドを打ち、あのひとの一番の『部下』として、ちゃあんと明日も笑っていよう。傍に居よう。
想いを告げると決めた時から、そう心に決めていた。



――だから。
この気持ちを『無かったこと』には出来ないけれど、忘れて欲しい。
そう告げた。
だからって、きっとあたしは忘れられないけれど、それはそれでいい。
貴方が何も思い悩む必要はないの。
ああ、遠くで雛森の声がする。
きっと今日もたくさんの書類を抱えて此処に向かっているんだろう。
…だから。

「行って」

にっこり笑って、背を押した。
「ほら、外で雛森が困ってますよ」
と、後押しをした。
尤も、心は張り裂けんばかりの悲鳴を上げていたのだけれど。


残酷な人。
憐れむように見上げる視線の強さをきっと貴方は知らないんでしょう?


どうか、そんな目であたしを見て躊躇わないで。お願いだから。
送り出す背中。
閉まる扉。
廊下の向こうの笑い声。
…これで、いい。
ツキリと胸は痛むけれど、最初からあたしが望んではいけないものだったのだ。




――あの日、あたしはあのひとへの『愛』を諦めた。








書きかけ途中の松本サイドですが、書きあがってる部分までをサルベージ。
ちょっとずつでも書き足して行って、いつか完成できたらいいなと思ってます。(え?;)

[*前へ][次へ#]

9/17ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!