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10.



暫しの膠着。永遠にも似た数の沈黙。
ゆらゆらと揺れる、水を湛えた青い瞳。
うそ、と。
微かに開かれたくちびるを見上げ、「嘘じゃねえよ」と俺は即座に否定の言葉を口にした。
「そうでなきゃ、お前みたく面倒くせえ女の世話なんて誰がすっかよ、馬鹿野郎」
まるで息することも忘れたように、今にも零れちまいそうなでっかい瞳をさらにでっかく見開いて俺を凝視していた松本は、それからぐすんと鼻を啜った。
ズルイ、と。

「ず…るい。冬獅郎ってば、ほんとカッコ良すぎ」

つーか、詰ってんだか褒めてんだか良くわかんねえよ、それ。
再び縋るように凭れ掛かった松本の身体の重みを苦笑混じりに受け止めながら、そのまま2人、再びそっと床に横たわった。
傍らに感じる松本の体温。やわらかな肢体。あまい吐息が首筋をくすぐる。
やわらかな金糸をそっと指で梳くと、ごろごろと猫が甘えるみたく俺の肩口に額を摺り寄せて。
それから、好き、と。
もう一度。
俺の耳元で、幸せそうに松本が囁いた。
俺も、また。
そんな松本を精一杯小さな腕で抱き返しながら、例えようもない幸せを感じていた。


馬鹿なおんな。
馬鹿なヤツ。
事あるごとにそう言って、呆れてきた俺だったけど…。
だけど、やっぱり。
馬鹿なのは、俺もおんなじだったみたいだ。
散々馬鹿にしてきた癖に、手を差し伸べた。
気まぐれに手を差し伸べて、挙句振り回されて…他の男に散々泣かされ続けてきたこのおんなに、結局自ら堕ちるなんて。



「あー…、ほんと馬鹿みてえ、俺」
嘆息混じりに呟いた俺に、そうしたら小首を傾げた松本が、上目遣いに「なんで?」って、不思議そうに訊ねてきた。
「とーしろー、すっごく頭いいじゃない!あたしなんかと違ってぜーんぜんおバカじゃないわよー」
「…いや、そーゆー意味じゃ」
そーゆー意味じゃねえんだけどな、と口にしかけた俺の言葉を遮るようににっこり微笑んで。
「それに。カッコいいしやさしいし、なんだかんだ文句言っても冬獅郎だけはあたしのことぜったい見捨てないでいてくれたし。…すごく、すごーく嬉しかった」
嬉しそうに言いながら、近付くやわらかな吐息とくちびる。知らず視線は釘付けになる。
早まる鼓動に、沸きあがる衝動。溢れ出す愛しさ。


「あ…んま、可愛いこと、言うな。馬鹿」
(顔。ぜってえ赤いに決まってるし、今)
戯れにじゃれあい、寄り添ったまま床に寝転んで顔くっつけて内緒話とか、今までだって何度だって繰り返してきた行為だけれど。
コイツに好きだと言われて。
改めてコイツが好きだと自覚して。
やっと想いが通じ合って。
こうして寄り添い抱き合っているのは、やっぱり…少しだけ、何かが違うなと思った。


「とーしろ…?」
俺を見上げる、水を湛えたあおいひとみ。
ふと笑って吸い寄せられるようにくちびるを寄せて、やわらかな松本のくちびるをやんわりと食む。
驚きに一瞬大きく揺れた松本の瞳は、けれどすぐさま瞼の奥に仕舞われて、金色の長い睫毛が白い肌に影を落とす。
応えるかのように突き出されたくちびるを優しく吸い上げたら、縋りつく細い指先に、きゅ、と熱が篭るのを感じた。


あかいくちびる。
落ちかけのグロス。
あまい果実の匂いもすっかり消えかけてはいたけれど…。
それでも淡い残り香を移した松本の吐息に、頭の芯がじんと痺れた。



*
*

それにしても。
(小6にして17の彼女持ちかよ…)
冷静になって考えてみれば、すげえ話だ。
つっても、まあ。あと6,7年も経ちゃあ、5歳の年の差なんて気にも留めなくなるんだろうが…。
それでも今のこの選択は、ガキの分際で些か先走り過ぎてるんじゃねえかと思わないでもないのだけれど。

満ち足りた顔で俺に縋るこの女に。
ガキの俺にこうもあっさり身を委ねてくるこの女に。
甘えては振り回し、他の男に泣かされまくってきたどうしようもなく馬鹿で可愛いらしいこの女に。
ここで俺がどう抗ったところで、どうせいずれは恋落ちていたに違いないのだ。
いずれ、自覚させられていたに違いないのだ。
(悔しいが、これだけは間違いなく断言出来る)

…ならば。

少しぐらいの『駆け足』だって許されるんじゃねえの?なんて。
それにどうせあと半年もすれば俺も中学にあがるんだから、少なくともランドセル背負ってる今よか見目だって釣り合うようになるんじゃねえの?なんて。
松本のやわらかなくちびるに溺れながら、俺は頭の片隅で誰にともなく意味のない言い訳と正当性とを唱えていた。

尤も。
手に入れてしまった、今。
誰に咎められたところで、繋いだこの手を離すつもりもなかったけれど。




end.


最早『日乱』と呼んでいいのかもわからないようなパラレルでしたが、とりあえずこんな感じで纏めてみました(w 
今回パラレルとは云え松本のキャラ崩壊がとにかくハンパなかったので、苦情とか非常に恐かったりもしたのですが、「続き楽しみにしてます」とお声をかけて下さる方が非常に多くて吃驚したコネタでもあります。まあ、基本オチは皆一緒なワケですが、ずっと昔から「書きたいなあ」と思っていた設定なので少しでも楽しんで貰えたなら嬉しいです^^ (実は元々『ワンピ』メインでやってた頃にルフィとロビンで考えていた話でしたw; いやまあ、さすがにルフィにそこまでの気遣いと配慮は求められんだろう!とあっさり断念したわけですが…orz)なので、『御伽噺』に引き続き今回も日乱で念願叶って嬉しい限りです(笑)てゆーか、何でもイケちゃう日乱ってすげえな!と改めて思ったり…ww
ではではここまで長々とお付き合い頂き、本当にありがとうございましたー!!(ペコリ)

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あきゅろす。
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