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the EDGE of the WORD 2



それから一週間後の朝のこと。
今日がお別れの日だと云うのに日番谷くんは起きても来なくて、おまけに見送りの時すら憎まれ口ばっかりで、あたしはなんだかとっても悲しかった。
それでもあたしは手を振った。
お休みの日には帰って来るからね、と。
おばあちゃんをよろしくね、と。
笑って手を振り、住み慣れた街を後にした。
でも、今考えればわかること。
恐らく…きっと、日番谷くんは傷ついていたに違いない。無神経だったあたしの言葉に、この町におばあちゃんと二人、置き去りにされる哀しみに。
けれどあたしにはわからなかった。
新たな生活、未知なる世界。
まだ見ぬ『未来』に胸躍らせていたあの頃のあたしには、日番谷くんの気持ちを慮るだけの余裕も思いやりも持ちあわせてなどいなかったのだ。
流魂街に居た頃も、死神になった今までも、日番谷くんは何時だってあたしのことを守ってくれた。想ってくれた。一番大事にしてくれてたのに。
けれどあたしは、いつだって違う人ばかりを見つめていた。追いかけていた。
ただ傍に居て見守ってくれる…そんな日番谷くんの優しさに、決して振り向こうとはしなかった。
馬鹿だな、って思える。今ならば。
彼が与えてくれた冬の陽だまりのような…ともすれば見落としてしまいがちな優しさよりも、もっと眩しくて温かい。そんなわかりやすい優しさに、強さに、温もりに、藍染隊長に。
あたしは焦がれ、惹かれてしまったから。
ただ、やさしく注がれる。
そんな『無償の愛』に気付けるあたしではなかったのだ。




そして今、現在。
日番谷くんが一番大事にしているひとは、あたし…では、ない。
彼の優しさに気付いた時には、あたしは既に遅過ぎたのだ。
大人になった日番谷くんの逞しい腕は、優しく『彼女』だけを包み込む。それは恐らく、幼い頃、彼が彼女から受けた『優しさ』に等しい。
日番谷くんは乱菊さんから貰った愛を、全く同じ方法で、今度は彼女に与えようとしている。返そうとしている。
その、大きな身体で、全身で、包み込むように慈しむように…ただ、乱菊さんだけを愛している。
そんな二人はとても素敵だと、あたしは憧れ、だけど羨む。






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あきゅろす。
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