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the EDGE of the WORD 1


※日→雛要素を含みますので、苦手な方は閲覧注意



「俺、桃が好きだ」
「うん、あたしも。大好きだよ、シロちゃん!」




それは、あたしが流魂街を後にする一週間前の出来事だった。
町への買出しの帰り道。真っ赤な夕日に照らされて、真っ赤な顔をしていた日番谷くんは、あたしを見上げて突然そんなことを口にしたのだった。
(急にどうしたんだろう?)
ちょっと不思議に思ったりもしたけれど、あたしは素直に嬉しかったし喜びもした。
随分長いこと一緒に暮らして来たけれど、あたしのことをそんな風に言ってくれたことなんて一度だってなかったから。…だから。
あたしもシロちゃんのことがだいすきだよって、ありがとうって伝えたかった。
大好きなおばあちゃん、大好きなシロちゃん。
あたしはこの町もこの町に住む人も、みんなみんな大好きだったから。だから。
なのに、日番谷くんは。
あの後。何故か日番谷くんは今にも泣き出しそうな怒ったような顔をして、それから掠れたみたいな声で「もう、いい」って吐き捨てるみたいに言って、あたしの手から強引に荷物を奪うと「先に帰る」と、あたしに背を向け駆け出したのだ。
大きな大きな夕日の向こうに、溶け出していく消えてゆく、小さな背中、銀色の髪。夕日の中に、独り…置いてけぼりのあたし。



最後まで気付くことは出来なかった。




一週間後にはあたしは死神になる為この町を出ることが決まっていた。
だから日番谷くんがくれたこの突然の「好き」の言葉もきっと、これから離れて暮らすことになるあたしへの『感傷』のようなものだろうなとあたしは勝手に思い込んでいた。
だけど、違った。
日番谷くんの告げた「好き」とあたしの返した「好き」は、決定的に違っていたのだ。その、意味合いが。
日番谷くんだけが、その相違に気が付いた。
だから、もういいのだ、と。
あたしの手を振り払い彼は駆け出した。
振り返ることなく、何もかもを振り切るように。



あの日、初めてあたしは日番谷くんを傷つけた。







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