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さよならの変奏曲 1



唐突に。
鍵を返してと言われた時に、僅かばかり驚きはしたものの、躊躇したものの。
その実ホッと安堵していた。胸を撫で下ろしていた。
尤も、決して顔に出すようなマネだけはせずに済んだのだけど。
それでも恐らく察したのだろう。
それらしいことは何ひとつ、口に出すことはなかったけれど、確かに女はわらっていた。俺へと向けて。
だから、俺も察した。
ああ、これで終わるのだな、と。





一年余りもの間、入り浸った部屋。身体を繋げたおんな。
七つも年上で、サバサバしてて、鷹揚で。
面倒見がいいんだか適当なんだか知らねえが、入り浸る俺をあっさり受け入れ、あまつさえ一年余りもの間、ずっと好き勝手させてくれていた女。
別段、付き合ってたってワケでもねえけど。
その居心地の良さにずっと便乗してきたのだけれど。
よもや別れ際までこうもあっさりだとは思わなかった。
よもやこうもあっさり別れの引導までもを渡されるとは思わなかった。

「隣りのカノジョと仲良くしなさいね?」

帰る俺へと笑って告げて、もう二度と。
ここへは来るなとばかりに背中を押された。

――全部見透かされていた。





*
*

心が動いた。
隣りのおんなに。
さんざ小馬鹿にしてきた、隣りの席のあのおんなに。
豪く懐っこくって、陽気で勝気で騒がしい女。
オマケに俺より10センチ近くも背が高い。
目の覚めるようなブロンドと、ガラス玉みたいなブルーアイズ。
人目を惹き付けるには充分の、俺同様に目立つ容姿をしていて――だけど、人望厚いクラスの中のまとめ役。
当初はナリと言動が派手なだけのバカ女かと思っちゃいたけれど、…そうじゃなかった。
気付けばアイツのペースに乗せられて、巻き込まれている俺がいた。
…けど、悪い気なんてぜんぜんしなくて、それが豪く意外だった。
そうしてクラスの中心人物たるあの女と、再三にわたりやりあいながらも一緒にいたことで、少しずつ…周囲の態度も変わってきた。
否。
あの女といることで、俺の態度が軟化し始めたゆえなのかもしれねえが、他のヤツらの俺を見る目が少しずつ変わっていったのだった。
徐々に打ち解けてゆく空気。
こんなにもクラスに溶け込んだのは初めてのことで、それがまた俺には酷く心地良かったのだ。
そんな居心地の良さを教えてくれたのが…導いてくれたのが、アイツなんだと気付いた瞬間、多分…急速に引き寄せられた。
好きだと気付ちまったんだ。
日番谷、って。
アイツが呼びかける、甘えた声を嬉しく思う。
くしゃりと笑った顔を、可愛いと思う。
長い睫毛と、厚いくちびるにドキッとする。
触れてみたいと抑えが効かなくなりそうだった。
もっと一緒にいたい。
傍にいたい。
俺の名前を呼んで欲しい。
そんな風に思ったから、余り成績の良くないアイツに「勉強みてやる」って名目で、声を掛けては無理矢理のように放課後ふたりきりになる時間を作ってみたり、帰り道を共にしたり。
…本当、自分でもバッカみてえと思わないでもなかったけれど。





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