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5.


にっこり笑顔は絶やさずに、華麗なまでに嘘を吐く。
――無論、鍵を取り替える予定などある筈もない。
けれどこうして合鍵を取り上げてしまえば、この子だってここへと足を運ぶだけの『理由』もなくなる。…そのキッカケも。
必要だって何もない。

(簡単な話じゃない)

そもそも合鍵なんて厄介なものを渡してあるから、ふらふらっとやって来てしまうのだ。
合鍵なんて厄介なものを持っているから、ここへと来なきゃいけないような気に駆られるのだ。
だから取り上げてしまえばいい。
それも、極・当たり前の理由付けで以って。
角が立たないように、波風ひとつ立てないように。
この関係を清算するために。


そしてあの子は…やっぱり、どこかホッとしたような面持ちで。
ああ、それなら…と。
あたしに鍵を手渡した。
存外あっさり戻された鍵。
その合鍵を、一度だけ。
ぎゅうと握り締めてからあたしは、ベッドサイドにことりと捨て置いた。


「で?鍵はいつ替えるんだよ?」
「さあ。詳しいことは大家さんに聞いてみないとわかんない」
「フーン。…まあ、調子悪いって前から言ってたもんな」


良かったじゃねえかと浮かべる笑みは、いつも通り。
どこかシニカルで、さっきまでの年相応の可愛らしさは微塵もない。
それを、あーあと思いながらもホッとしている。
やっぱりこっちの方が見慣れている。
居心地がいいと思ってしまうあたしも、きっと。
変わりゆくこの子とこの先も、この『関係』を続けることなど微塵も望んでなどいないと云うことだろう。
(潮時、ってヤツなのかしらね。やっぱり)

「まあ、いいや。鍵、付け替えたら連絡くれ」
「…ん。わかった」

わかった、なんて。
したり顔で答えつつも、当然あたしから連絡するつもりなどある筈もない。
だけどそれはこの子だって同じに違いない。
(だってあたしが連絡入れるまで、ここには来る気ないってことでしょう、それ?)
そもそも「連絡くれ」って時点で、自分からあたしに連絡する気も、繋がる気すらないのは明白なのだ。
…だからやっぱり、ゲーム・オーバー。
そう思って、零れる忍び笑い。
まあ…けっこう楽しかったしね?
この子もまだまだ16なんだし、いい加減年相応のカノジョ作るのが理想よね?
そう思って、吹っ切って。
脱ぎ捨てたシャツに手を伸ばす。





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あきゅろす。
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