[携帯モード] [URL送信]
不機嫌なジーン 2


「アド…レス?」
「おー。ケータイとメアドの両方な。わかんねえと困るだろが」

今尚片手で蓮を抱っこしたまま、器用にもジーパンのポケットから取り出す携帯電話。
(もちろん最新機種に様変わりしている)
けれど液晶を開いて何故か一瞬眉を顰めたあの子は、「チッ!」と鈍い舌打ちをした。
…てゆーか、なんで今そこで舌打ちを??
その舌打ちの本意まではわからない。
それでもこれって多分あたしへ向けての舌打ちなんだろうな・と、何となく…漂う空気で気が付いたから、おどけるようにくちびるを尖らせた。
「っな、なによう。ヤな感じねえ、アンタ」
「うるせえよ。誰のせいだと思ってやがる」
ああ、ほら。やっぱりー!!
間髪入れずに返ってきた、苛むようなそのひと言に打ちのめされる。
それに、アドレス…アドレスって!!
正直、ちょっと…あんまり教えたくないんですけども、あたし!!
思わず頬を引き攣らせたその刹那。
耳に飛び込んで来た、蓮の声。

「あ、これってママのなまえー!」
「……へ?」

あの子とおんなじ翡翠の瞳をキラッキラに輝かせながら叫んだ蓮は、ギョッと目を丸くしたあの子の手から遠慮容赦なくむんずと携帯を取り上げたかと思ったら、その液晶を満面の笑みで以ってあたしの前へと突きつけてきた。
そうして釣られるように覗き込んだ先、携帯のアドレス帳には。
――松本乱菊。
確かにあたしの名前があって。
しかも、6年も前に解約した筈の古い携帯の番号とメアドまでもが今尚しっかり記録されているではないか。
(てゆーか、ちょっと待ってよ!)
これって、明らかに最新機種の携帯よねえ?
6年前の携帯ってワケじゃあないのよねえ?
なのに、なんで消えてないの?
あたしの名前も…アドレスも。
よもや着信拒否の設定のために取っておいたとかってワケでもないのよねえ?
(だいたいとっくの昔に解約しちゃってんのよ、この携帯)
メアドだって当然変わってるんだし、そもそもそんな設定したところで何の意味もない筈だ。
むしろ速攻消してしまってもいい筈だろう。
6年も前に付き合った、それもあんな酷い別れ方したような女のアドレスなんて、消さない方がどうかしている。
なのにこの真新しいばかりの携帯の中には、確かにあの頃の『あたし』がいる。
6年経っても消えることなく。この子の中に…。
(ねえ、それって…つまり?)
呆けるあたしの目の前には、何ともばつの悪そうな顔をしたあの子がいて。
真っ赤に顔を染め上げている。
不本意とばかりに、ものすっごい勢いで眉間に皺を寄せている。
そんなあたし達二人に釣られるように、どれどれと蓮の手元を覗き込んだマスターまでもが何とも苦い笑いを浮かべた途端、再び漏れ出る鈍い舌打ち。

「これは…よっぽど消し難かったんだろうねえ」
「っわ、悪かったなあ、未練たらたらで!!」

そんなヤケッぱちなことを言っては真っ赤な顔で、ぐしゃりと自身の銀糸を掻き毟る。
「ごめんよー、更に突っ込んだこと聞いちゃうけど、もしかして君さあ…自分の番号とメアドもこの6年、一切変更してなかった・なんてことは…」
「っ!!」
更なるマスターからの突っ込みに、うぐと一瞬言葉を詰まらせて。
だけど結局諦めたように苦りいっぱいの溜息をひとつ、吐き出してから。
「ああ、そうだよその通りだよ!悪かったなあ。アンタの思ってる通り、どうかしたらひょっこりコイツから連絡があるんじゃねえかとか期待して、未練がましく変えられなかったんだよ、この6年!しょうがねえだろ!!」
真っ赤な顔で叫んだあの子は、いいからお前もさっさと携帯出せって!と。
あたしに矛先を向けてきたので、あたしも慌てて携帯を取り出すと、――ほんの一瞬…躊躇ってから、画面を開いて手早くボタンを操作して。
それから自分の携帯電話を無理矢理のようにあの子の手のひらへと押し付けた。
押し付けられたあの子はと云えば、手のひらのそれにまるっきり意図を見出せないらしく、当然だけど眉を顰めている。
「つか、俺に寄越すなよ。お前だって俺のアドレス登録しなきゃ困るだろが」
訝しげなその顔に、けれどあたしは。
「…必要ないから」
とだけ素っ気無く告げると、ツンとそっぽを向いた。






[*前へ][次へ#]

16/69ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!