不機嫌なジーン 1
――迎えに来た。
そう言って、繋がれた手のひらのこのぬくもりを。
一瞬あたしは夢だと思った。錯覚した。
(だってこんな都合いい話、あるワケがない)
6年も前に、ほんの半年足らず付き合っただけの年上の女。
(しかも、5つも年離れてんのよ!)
挙句、何も言わずに勝手に消えたあたしのこと、今更「迎えに来た」とか言われたところで鵜呑みにできる筈もない。
(しかも、勝手に子供まで産んでんのよ、あたし!)
普通、怒るでしょ。気味悪がるでしょ。
若しくはトンズラこくところでしょう。
なのに我が子は恐ろしいまでの順応力の高さで目の前の男へと懐いていて、あまつさえ大人しくその腕に抱かれている。
対するあの子の方も、極・当たり前のように『蓮』の存在を受け入れている。
(なんだ、それ?!)
わー、これ絶対夢だ!
あたしに都合いいだけの『夢』だ、絶対!
起きながらにして見ている夢に違いない!!
そう思ったところで無理ない筈だ。
そうして心密かに現実逃避に呆けていた。耽っていた。…ところを、傍らの男によって引き戻された。
――現実に。
ぎゅうと寄せられた眉間の皺。
あの頃よりもうんと鋭くなった三白眼に見据えられて、あたしはこくりと息を呑む。
…だけど。
「つーか、お前。とりあえず先に今の携帯のアドレス俺に教えろよ」
憤然と言われて拍子抜けした。
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