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日乱
不完全 2



「面白れえなあ、お前!ンな平気な振りして、実はすっげー怒ってたんだろ?」
「テ…メエ、黒崎。ひとからかうのも大概にしろよ!?」
ギロリと睨む三白眼。
ぶわりと霊圧が僅かに揺れて、動揺を知る。尤も、当の本人はまるで気付いちゃいないようだが。
「つーか、もうそれ、終わったんだろ?なら、さっさと迎えに行ってやれよ」
ひょいと覗けば、画面は既に待ち受け画面へと戻っていた。
「元はといえば、お前が『仕事の邪魔すんな』とか冷てえこと言うから、乱菊さん、あっちでつまんなさそうにしてんだろ?」
「…あん?今は随分楽しそうだぜ」
なんだよ、まともに見てもいねえ癖にちゃんとそっちに意識は飛ばしてたんだな、お前。まあ、あんだけでっけえ声でキャラキャラ笑ってりゃあ、そりゃあ楽しそうに見えるのかもな。でもな。
「バーカ!お前、ホントわかってねえなあ」
「ンだと、テメエ!」
憤る冬獅郎は、生憎なんにもわかっちゃいなかった。
「乱菊さんはなあ、お前と一緒に居る時が、一番楽しそうで嬉しそうで…一番幸せそうに笑ってんだろ?」
「っ!」
違うかよと追い討ちをかけられ翡翠の両目を零れんばかりにでっかく見開き、息を呑んで驚く冬獅郎のその無防備さに、仕掛けた俺が逆に息を呑む。
ああ、そうか。普段デカイ口叩いちゃいるけれど、やっぱりコイツは『餓鬼』なのだ。
他人に言われて初めて気付くことだってある。
それが普段、自分だけに向けられているものであれば、尚更『特別』であることに気付かないものかもしれないけれど…。
だとしたら。
「乱菊さんがあんなに男にモテるのって、案外お前のせいかもしれねえな」
「ハア?意味わかんねーよ」
パチンと音を立て携帯の画面を閉じた冬獅郎は、ゆっくり乱菊さんを仰ぎ見た。
いや、冬獅郎の座っている位置からは乱菊さんの顔は見えていない筈だった。
人波に囲まれた乱菊さんから、冬獅郎は見えていない筈だった。
今も笑い声は聞こえて来る。けれど、だからって、彼女が本当に心の底から笑っているかどうかは俺達からはわからないのだ。




「お前と居る乱菊さん、ホントすっげー可愛いんだぜ?それ見て他の野郎が惚れちまうんだから、あの人がモテるのってやっぱお前のせいなんじゃねえの?」
そう言って低く笑った俺に、馬鹿言ってんじゃねえよと睨む不機嫌も露なこの銀髪の子供が、あの妖艶美女の『王子様』ってワケだ。
「おら、ンなぶーたれた面してねえでさっさと迎え行ってやれって!」
「うおっ!!」
どんと力いっぱいその幼い背中を突き飛ばす。
「テメエ…黒崎、覚えてろよ!!」
「いいから。早く行ってやれっつーの!」
しっしと犬でも追い払うかのような仕草で手を払う。すると今度は、みしっと冬獅郎の眉間にヒビが入った音がした。だが、冬獅郎はチッと小さく舌打ちをしただけで俺に背を向けると、やれやれとばかりに幾分勿体ぶった所作で乱菊さんの名を呼んだ。
「松本ぉ」と。
決して大きくはないその声は、下手すれば昼休みのざわめきの中に埋もれてしまいそうだったのだけど…彼女の耳にはちゃんと届いていた。
冬獅郎に名前を呼ばれたその瞬間、乱菊さんの顔が本当に本当に…綺麗に綻んだから。
「来いよ、終わった」
尤も、俯きがちにボソリと呟く冬獅郎には、恐らく彼女の笑顔はまるで見えちゃあいないだろうが。
「はい!お疲れ様です、たいちょー!」
待ち侘びたかのように叫んで席を立つ乱菊さんは、誰もが見惚れるような微笑を浮かべ、幸せそうに冬獅郎の肩にしなやかな腕で抱きついた。
重てえ、離せと眉間に皺を寄せる冬獅郎は、それでも乱菊さんの拘束を無理に振り解こうとはしない。
見慣れた光景、あるべき姿。
突如現れた銀髪の子供に『女王様』を奪われてしまった取り巻き共の落胆は見るからに大きい。だけど。
やっぱり乱菊さんの隣りに在るのは冬獅郎であり、冬獅郎の隣りに在るのは乱菊さんであるべきなのだ。
(ま、あのひとのあんな出来の悪い作り笑い…見たかあねえしな)
その、見慣れた遣り取り、光景を前に、俺の『苛立ち』はすっかり消え去っていたのだった。





end.


『日乱+一護』で一護視点で、松本の隣りにいるのが日番谷以外の男なのがなんとなく気に食わない一護とか(笑)とりあえず『日乱』に次ぐ大っっ好きな組み合わせであります、これ!その割に一護のキャラが破壊されてて申し訳なく;;一応サイトの4周年記念とカウンター50万打越えのお礼を兼ねてアプしてみました。その割りにあんまりめでたくもないネタですんません(笑)

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