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日乱
2.





それじゃあ自分が隊長と同じ身長の頃っていったいどのくらい前だったのかしらとちょっと記憶を辿ってみる。
…が、まるっきり思い出せない。
「どう…でしょう。多分、百年もあれば余裕で追い越されてしまうとは思いますが」
「百年!」
マジかよ…とがっくり項垂れる隊長の旋毛が何だかとっても愛おしい。
「ええ、でも大丈夫ですよ、雛森に並ぶくらいなら恐らくそこまでかかりませんから。もう三十年くらいの辛抱ですよー!」
そりゃああたしくらいの身長があった方が確かに釣り合いは取れるだろうけど、とりあえず多少なりとも同じ目線になってしまえば、そうそう気になるものでもないだろう。それはそれで微笑ましくていいとも思う。
けれど隊長は普段釣りあがり気味の目を丸くしてぱちくりと瞬かせている。
えーと、何か変なこと言ったかしら?あたし。
「…何でそこで雛森の名前が出てくんだ?」
アレ?もしかして隊長、なんか…機嫌悪くないですか?眉間にドッと皺が寄ってます。
まだ変声期前の少年の声が地に落ちたように執務室に低く響く。
気のせいか、部屋の温度までが下がったような?
「雛森と同じじゃまだお前より低いだろが」
いやそれは確かにそうなんですけど。
「雛森は多分隊長の背が大きかろうと小さかろうと気にしないんじゃないんですか?」
「そんなこたァわかってる!」
やだ、惚気?!と、おどけたところで
「ま〜つ〜も〜と〜」と極寒の嵐が執務室に吹き荒れた。…こ、恐いです、隊長!
「あのなぁ、いい加減雛森から頭離せ」
「…はぁ」
「で、お前はどうなんだ。俺がガキなことは気にならねぇのか?」
ああ、それこそ愚問です隊長。あたしはにっこり微笑みかける。
「あたしは今の隊長が大好きですよ」と。






大きくなった隊長もそりゃあカッコいいだろうけど、今の貴方も充分素敵です。
鋭く凍て付く眼差しも、他を圧倒する霊圧も、ピンと伸びた背筋だって、
他のどの隊長よりあたしには強く大きく映るんです。
「だからあんまり気にしちゃだめですよ。それに成長期が来れば背なんてあっという間に伸びちゃいますから、今の内にドンとあたしの胸に埋もれてて下さい!」
じゃああたしお茶でも淹れて来ますねーとその後さっさと給湯室に向かってしまったあたしの耳には、残念なことに
「俺はお前と並んでも遜色ねぇ男に早くなりてーんだよ」
と漏らした隊長の溜息が届くことはなかったのだけど。






end.

初めて書いた日乱コネタ。
2007年の夏コミで無料配布したペーパーから再録。
ちなみに参加スペースはテニプリ。色々ツッコミを頂きました(笑)

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あきゅろす。
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