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日乱
レーゾンデートル 1



あたしの存在理由ってなんだろう。



時折そんな途方もないことを考えてしまうのは、何時だってこんな時に他ならない。
そう、例えばそれは。

ついさっきまで不機嫌に眉間に皺を寄せていた筈のあの人が、可愛いあの子が訪ねてきたってだけで、その表情を変える時。
まるで子犬同士がじゃれ合うみたいな会話の応酬に、あたしは最早蚊帳の外の人。
悲しいかな、はっきりくっきり『境界線』が見えてしまうから…だから逃げるように見つからぬように素早くそっと席を立つ。でも、行く当てなんて、これと言ってない。
だから暇潰しにとあっちへふらふら、こっちへふらふら。まるで野良猫のように隊舎を渡り歩いて、雛森が帰った頃を見計らって、あたしはようやく帰路に着く。
もちろん帰り着いた先、執務室の隊長は怒り心頭。だから必然的にあたしが見るのは、何時だって隊長の『不機嫌な顔』ばかりとなる。
「まあまあ隊長、お茶でもどうです?一服に」
このままじゃあ皺の跡が取れなくなっちゃうんじゃないかしらってくらいの深い皺を眉間に寄せたまま、一心不乱に書類の上に筆を走らせていた隊長にあたしがそう提案したのは、時計の針が間もなく三時を示そうとしていたからだ。
雛森が帰るまでの間だけ…と、今日もこっそり抜け出したあたしに、めいっぱいのお説教をくれた後から隊長は一言も口を利いてくれない。(言い訳に、と。他隊に回す書類を一応持って出たのだけれど、「それにしても遅すぎる!」と、結局怒られた)
おかげで今日のお昼の気まずかったこと!
まるで針の筵、ご飯の味なんてちっともわかりゃしない。
でも…そろそろお互い『譲歩』したっていい頃なんじゃあないですか?
あたしもあれから仕事だって真面目にこなしたんだし、いい加減許して下さいようと擦り寄れば、眉間の皺はまあ相変わらずだったけど。
「茶ぁ。淹れてくれ」と。隊長はやっと一言、返事をくれた。
それでも「次やったら本気で部屋に結界張るからな」と釘を刺す辺りはさすがです、たいちょー。
まあ、「はあーい、わかってまーす」と答えたところで、きっとまた、あたしは抜け出すことになるんだろうけど。

…だって雛森が居る時、この部屋の中にあたしの居場所なんてない。

確かに、あたしは十番隊の副隊長だけど。
巷の噂によれば隊長は、当初、自分の副官に雛森を希望してたらしいのだ。
尤も、藍染隊長に心酔しきっているあの雛森が、そんな話を了承する筈もないわけで…。結局総隊長の計らいにより、十一番隊で席官として油を売っていたあたしにお鉢が回ってきたと云うのが、その噂の顛末らしい。
といっても、これはあくまでも噂。実しやかに囁かれているだけの噂話に過ぎないんだけど、でも、多分…信憑性に間違いはないと思う。(だって雛森に対する隊長のあの態度を見ていれば、一目瞭然、なんだもの)








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あきゅろす。
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