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眠りの森の茨姫
05
燃え盛る炎。酸素と本殿を糧に勢いを増すそれは、緯夜にも容赦無く爪を向け、牙を向く
水を被ったとはいえ、この炎ではすぐに乾き大して役に立たない。熱気が水の鎧を削ぎ、炎の爪が緯夜の衣を、髪を、肌を焼かんと迫る

大人でも怯むような場所。にも関わらず、緯夜はそんな様子を全く見せずにただ奥へと突き進む。時折火の粉が爆ぜ炎が迫り、容赦無く肌を焼くがそんなこと、緯夜には無いに等しい


『雄兄、蓮兄ー!!白龍ーッ!!』


進むに連れ薄くなる酸素。だが平気そうに、緯夜は白龍達の名を呼ぶ。逃げ遅れたのだろう骸が三人の者でないか、確認も忘れない


『兄ィー!!白龍ゥーッ!!』

「緯夜殿…!?」

『!!』


ひたすら叫び進む内、声に返事が返ってきた。見ると小さな炎の向こう、顔に火傷を負った白龍がいた。頭の先から全身血塗れだが、火傷以外に外傷は見られないことに少しだけ安堵する。同時に、その場にいない兄二人の死を確信してしまう


「緯夜殿…何で…」

『白龍、動かないでね?すぐ行くから!』


理由がわからないながらも、助けが来たということは理解できたのだろう白龍は力が抜けたらしくその場にへたり込む。構わず、倒れたのだろう柱や炎を飛び越え緯夜は着実に白龍に近付く

もう少し。そこまで来た瞬間、ガラリと不吉な音が響いた


「え…」

『!!』


二人の視線の先、白龍の頭上の骨組みの一部が焼け崩れ、落ちてくる。状況を理解しきれていないのか力が完全に抜けてしまったのか、白龍は立ち上がることすらできない


『白龍!!』


駆け出し、手を伸ばす緯夜。もう少しという所まで来てはいたがまだまだ距離はあり、到底届かない距離。確実に、緯夜より骨組みが落ちる方が早い

動けない白龍に落ちていく骨組み、反射的に伸ばした手。それらを緯夜は、どこか茫然とした頭で見つめる


―白龍、を、助けなきゃ

―遠い、間に合わ、ない

―届か、ない


そう思った瞬間、バチリと緯夜の頭の中で何かが弾ける


―あ、来る


フラッシュバック。弾けたそれは、緯夜の"本体"の記憶



―大きな、滅茶苦茶な戦争


 "あの子"と"あいつ"と、
 一緒に三人で、戦って

 いつの間にかバラバラになっちまって
 二人が、殺られそうになってた

 助けないと、
 自分の相手も放り出して、走って
 でも距離があり過ぎて、間に合わなくて

 "あの子"が刺されて、
 "あいつ"も吹っ飛ばされて
 背後をザックリやられた"俺"も倒れて

 間に合わなかった、届かなかった

 歪む視界で、朦朧とする意識の中で、
 "俺"は二人が留めを刺されるのを、見てるしかできなかった


 "俺"は、二人を守れなかった




意識が、"緯夜"に戻る
実際の時間では、一瞬にも満たない程の短い時間。だが、緯夜の気持ちを、思いを変えるには充分過ぎる時間だった



―"また"、失くすの?

 "あいつ等"みたいに

 "僕(オレ)"は、守れないの?


―…嫌だ


『―――う』


―嫌だ


『畜生…』


―"これ以上"、失くすのは、


『畜生…!!』


―もう、


『ちくしょォォオオッ!!!!』


―嫌だッ!!

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