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眠りの森の茨姫
04
その日は、いつもと変わらない1日だった

まだまだ寝足りないが最早遠慮などしない女官に容赦無く叩き起こされ、船を漕ぎながらも着替えさせられ。食事や準備が一通り済んだ後、学問を受け半分寝ていたことに気付かれ怒られ。解放された後、やって来た紅覇や白龍、紅玉と遊んで紅明に押し付け紅炎の下で会話

とにかくいつも通りの、緯夜にとっての日常。これからも大して変わることはないだろう時間


「皇女殿下…一大事です!!」


「皇帝陛下が襲われ…本殿に火が!!」


それが、今日という日、最後の時間だった



―――――――



女官から話を聞いた緯夜は、離宮を飛び出し直ぐ様本殿に向かった。彼女の目に飛び込んできたのは、ごうごうと燃え盛る炎
火を消そうと僅かにしかならない水を運び込む者、怪我人、野次馬。様々な人々で混乱するそこで、緯夜はどこか冷めた、他人事のような目を向けるばかり

燃える城も、泣き叫ぶ人々も。全て、緯夜には他人事だった

ここまでは


「―……、離して!!」


ふと、緯夜の耳に馴染みのある声が届いた。初めて聞く切羽詰まった、だが間違えようのない声。見るとやはり、女官達に止められながら本殿に手を伸ばす白瑛の姿があった


『…?白瑛、どうしたの?』

「、緯夜…!!」


近付き声をかけると、糸が切れたように白瑛は崩れ落ちた。白瑛には珍しい弱々しい姿。それに嫌な予感が過る


『白瑛?』

「ッ…父上が、殺され…兄上達と、白龍が…まだ、中に…!!」


堪えきれず、とうとう白瑛は泣き出した。気丈な彼女らしからぬ姿にもだが、それよりも白瑛の言葉に驚かされる。女官達を見ると、皆揃って俯くばかり。それで充分、理解できた


兄上―白雄・白蓮と白龍が中に、あの火の中に取り残されている。その事実に、さすがの緯夜も眠気が完全に吹き飛んだ

皇太子であるにも関わらず、従姉妹である自身を実の兄妹のように扱ってくれた三人。少なからず、緯夜も親しみを覚えていた彼ら


少し紅炎に似た、最もしっかりした兄のような存在の白雄

やや単純で、兄というより友人のように思えた白蓮

ただ純粋に、無垢な様子で自身に懐いてくれた白龍


それぞれ全く違う、それでも大切だと思えていた存在。緯夜ですら、"家族"と思える存在

今やっと、彼らが自分にとって大事な存在になっていたと緯夜は気付いた


『ねえ』


白瑛の下を離れ、緯夜は水を運ぶ者の一人に声をかけた。事は急を要するが、相手が紛いなりにも皇女だと気付くと桶を持ったまま手を止める


『それ、貸して』


それ、と指し示されたのは水の入った桶。いきなりのことに何に使うのか、理解できないまま言われた通り桶を渡す

渡された緯夜は、躊躇いなど全く感じさせない動きで頭から水を被った


「な…なっ!?」

「こ、皇女殿下!?」


思わぬ行動に手渡した者、見ていた者は声を上げる。皇太弟の娘とはいえ、皇女が自分から水を被るなど誰が想像できたか。更に騒然とする周囲には構わず、緯夜は驚愕に目を見開く白瑛に目を向ける


「緯夜…?」

『白瑛、待ってて』


びしょ濡れになった緯夜。だが、炎に照らし出されたその顔は、間違いなく、


『僕が、白龍達を連れてくるから』


間違いなく、笑っていた


「緯夜様!!」

「皇女殿下!!」


白瑛の返答も聞かず、緯夜は駆け出す。何をする気か周囲は漸く察したが時既に遅し、緯夜は火の中に自ら飛び込んでいった

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あきゅろす。
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