眠りの森の茨姫
03
※白雄・白蓮の性格捏造
『雄兄、蓮兄〜』
禁城本殿。皇帝の弟の娘である緯夜は離宮暮らしなため、本来なら滅多に行かないはずのそこに今回来ていた。訪ねる相手は皇太子・練白雄と、その弟・練白蓮
「おお、緯夜!」
「珍しいな、お前がここまで訪ねてくるなんて!何か用か?」
『んーん?何となく』
二人纏めて見つけ、そのまま部屋に入る。いつでも来い!とばかりに手を広げる白蓮に、緯夜はその腕に飛び込み―
―はせず、素通りし少し奥にいた白雄に抱き着いた
『雄兄、白瑛と白龍はァ?』
「今は二人共出計らっている。だが直に来るだろう」
『ん』
「…緯夜!!何故、毎回毎回俺を素通りするんだ!!」
居ないかのような扱いを受けた白蓮は、情けなくも半泣きで振り返った。おまけに「あ、いたの」という反応を緯夜、更に白雄にもされ今にも"の"の字を書こうとする程にショックを受ける
「兄上ばかり、兄上ばかり…」
「あー、その…すまん…」
『蓮兄、蓮兄』
白雄の謝罪は白蓮の耳に全く入っていない。そのため、緯夜は自ら動いた
白雄から離れ、机に手を着き項垂れる白蓮の衣服を軽く引く。ゆっくりと視線を向ける白蓮の目に入ったのは、自身の衣を掴み見上げる無垢な銀色
『僕…蓮兄のこと嫌いじゃないよ?』
コテン、と小首を傾げる+上目遣い。愛らしいそれに、白蓮は一発で回復し感極まった様子で抱き締める
大喜びする白蓮には気付かれないよう、緯夜がニヤリと子供らしからぬ笑みを浮かべたのを白雄はしっかりと目撃していた
「(白蓮…何故気付かない…)」
『ねーねー蓮兄ィー。雄兄と何見てたのォ〜?』
白雄が目撃したblack smileを思わせぬ程に、純真無垢な子供らしい口調と声で緯夜は尋ねる。すっかり上機嫌な白蓮は緯夜を抱き上げると、机の上に広げられたそれに触れた
「これはな、緯夜。先日父上が平定した国の地図だ」
『叔父上様が?』
「あ、ああ…先立って再び領土を広げたからな、問題が山積みだ。それを解決すべく、俺達もこうして手を貸している」
白蓮の手により、椅子の上に膝立ちし地図を覗き込む緯夜に二人は答える。子供に理解できるか、やや難しいところだが緯夜は理解できるため問題ない
『大変だねぇ』
「ああ…だが、やり甲斐のある仕事だ」
『んー、それもあるけどォ。いつもいつも戦争、戦争…始める前も後も問題ばっか。なのに繰り返し戦争…うざったくなるねぇ』
冷めた目で地図を撫でる。子供らしからぬ表情に、今度は白蓮も気づいていた
「…本当に、緯夜は戦が嫌いだな」
『あー、戦自体は別に好きでも嫌いでもないよ?どうでもいいし。僕が嫌いなのは、戦争するバカやクズ野郎だから』
兄達や叔父上は入ってないけど。そう付け足したものの、一瞬だけ銀色に映ったのは間違いなく憎しみの色
理由は知らないが、幼子の緯夜がそれを宿したことに二人は心を痛めずにはいられない
「…緯夜」
『ん〜?』
銀髪を、白雄は撫でた。唐突ながらも特に驚いた様子を見せず、緯夜は目を向ける。銀色が映したのは、どこか傷付いたように笑う白雄の姿
「緯夜は…戦が嫌いか?」
『ん〜、ビミョーなとこ。だけどどっちかって言ったら嫌いかな』
「そうか…」
表情はそのまま、銀髪を撫でる手は止まらない。紅炎とはまた違う大きな手に、緯夜は心地よさそうにされるがままになっていた
「あーッッッ!!!!!!」
「「!?」」
重く、シリアスな空気はいきなり上がった絶叫によりぶち破られた。唐突なそれにビクリと肩を跳ねさせる兄弟と緯夜が見ると、頬を膨らませる白龍と宥める白瑛の姿が
『あ、白瑛に白龍〜。お邪魔してま〜す』
「あ、はい…お久しぶりです、緯夜」
「兄上ばかり緯夜殿と!!狡い!!」
『アハハハハ。おいでェ〜』
拗ねる白龍に椅子から降りた緯夜は手を広げた。途端に迷いなく、白龍はその腕に飛び込み思い切り抱き着く
頬擦りする白龍をくすぐったいと言いながら止めない緯夜。微笑ましいそれに、白雄と白蓮の表情も和らぐ
―この笑顔が、汚されないように
目の前の光景に、白雄と白蓮、二人は知らず知らずの内に同じことを胸の内で願う
が、それが全く予期せぬ事態により破れることをこの時知る者は誰一人いない
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