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眠りの森の茨姫
08



これは僕が、"練緯夜"じゃなかった頃の話



―――――――



信じられないだろうけど、この世界じゃない別の世界…所謂"異世界"ってところで、僕は目覚めたんだ。研究所っていう、書庫とは全然違う方法で色んなことを調べる場所でね?そこで僕は生まれた
その世界はね、神様の力を借りて世界を懸けた戦争をしてたんだ。その戦争に勝つために、僕は研究所で作られた。普通よりずっと怪我が治りやすい身体にね

そこには僕以外にも作られた子―被験体っていうんだけど、そういう子がいてね?アルマとユウって言って、僕の後に目覚めたんだ。喧嘩もいっぱいしたけど、僕の大事な友達だよ

研究所では、毎日痛い実験をさせられたよ。シンクロテストって言って、戦争に使う武器を使えるかどうかの実験だったんだ。特別なもので、持ち主を選ぶ武器だから

すごく痛かったし、辛かったよ。怪我なんてすぐ治るけど、痛いものは痛いからね。最初の内は泣いてばっかりだったなぁ
でもね、それはアルマやユウも同じだったんだ。だから我慢したよ。痛かったし辛かったけど、三人で我慢した

テストはキツかったけど、被験体以外の人も意外と優しかったしアルマとユウと一緒なのは楽しかったしね。アルマは能天気だしユウはつれないけど、二人共良い奴だったから
辛いこともあるけど、その分楽しいこともあってさ。テストも苦じゃなくなって、このままでも良いかなー、なんて思うようにすらなってた

ずっとこのままが良いって、思ってた


けど、人生って上手くいかないもんだよねェ。悲劇がさ、起きちゃったんだ


僕が作られた人間だって言ったよね?何から作られたと思う?
それはね、武器に選ばれたけど怪我とかで戦えなくなった人間だよ。僕らは"本体"って呼んでるよ

ユウがさ、"本体"の記憶を思い出しちゃったんだ。それでマズイって思った研究所の人が、ユウを眠らせようとしたんだよ。永遠に

僕とアルマはユウを逃がした。代わりに捕まっちゃったし、ユウも連れ戻されたけどね
でもね、アルマは諦めなかった。だから一人で武器を取りに行って、研究所の人に止められてそれでも諦めなくて…


アルマも、"本体"の記憶を思い出しちゃった


アルマは怒ったよ。だってさ、死ぬとはいえ辛ーい嫌なことから解放されたのにまたやれって…そりゃ怒りたくもなるよねェ

怒ったアルマは、研究所の人達を皆殺しにした

嫌な奴も優しかった人も、僕ら以外の被験体の子もね。それで僕やユウも殺そうとしてね。僕は、アルマに刺されちゃった。そりゃあもうメッタ刺し

痛かった。けどそれより、悲しかった

アルマはさ、大事な大事な友達だったんだ。そんな友達に殺されかけて…心の方がずっと痛かったよ



その後、すぐ治る身体のおかげで僕は助かった。ユウもね。ただユウはさ、助かるため…っていうより、"本体"の記憶から会いたいって思う人を探すためにアルマを…殺しちゃった

悲しかったよ。アルマに刺された時よりもずっと

殺されかけても、アルマは大事な友達だったからね。そんなアルマが、死んだことはすっごく辛かった
でもさ、だからってユウを恨むなんてしたくなかった。ユウを、殺したくなかったから

でも恨みとか怒りとか、早々消せるもんじゃないんだ。正直どうすれば良いか…

苦しかった。苦しくて、苦しくて苦しくて苦しくて苦しくて苦しくて苦しくて苦しくて苦しくて…


僕は、何もかも放り出したよ


恨みも怒りも…苦しみも悲しみも、全部全部放り出した。でなきゃ、僕はきっとユウを…殺してしまうから

その後は、武器を持って僕はユウと研究所の偉い人ん所…"黒の教団"ってところに行ったんだ。後はとにかく、戦争に…戦に出て戦った。いっぱい怪我したし辛かった。でもさ、教団にも良い奴はいたしユウもいた。だから我慢できた


それから9年くらい経ってね。また、事件が起きた


アルマがさ、生きてたんだよ。教団のろくでもない奴等に利用されててね。それを、更に敵に利用されたんだ

敵になったアルマは、ユウと戦った。お互い本気の殺し合い…止めようとしたけど、僕なんて倍返しで一蹴されちゃった
たださ、全部アルマが悪いわけじゃなかった。アルマにも事情があったんだ

ユウの"本体"に、会いたい人がいるって言ったでしょ?その会いたい人が、アルマの"本体"だったんだよ。皮肉なもんだよねェ

アルマはとにかく、それを秘密にしておきたかったんだ。だからユウを殺そうとして、最終的には自殺にまで走っちゃった。ユウを巻き込んでね
僕ができたのは、ユウを庇うことくらいだった。ひっどい大怪我したけどね

その後、ギリギリ生き残ったアルマは話してくれたよ。自分がユウの会いたい人だって。それでまた、死のうとした

でも、僕やユウだって何とか生き残っててね。教団で会ったユウの悪友…アレンっていうんだけど、そいつの手を借りて三人で逃げたよ


逃げた先で、やっとユウとアルマ、それに僕は仲直りできた。ユウが思い出す前に、戻ったみたいだったよ

でもさ、僕やアルマは大怪我し過ぎた。僕らの身体は身体の中の呪符ってものですぐ怪我が治る…けどそれは呪符が効いてる間だけ。真っ先にアルマが効果が切れて、僕もすぐ、本当に死んだよ

死んだことに、心残りは無かったよ。アルマやユウとは仲直りできたし、正直生きてるのが辛かったからね。"やっと眠れる"って、解放感のが強かった


でもさ、運命ってどこまでも鬼畜だよねェ。気が付いたら僕は、変わらぬ身体のまま煌帝国の皇女"練緯夜"になってたんだから



後はもう君も知っての通り。僕は皇女として、ただ何となく生きてたよ。眠ることに執着着いちゃって、いっつも寝てばっかだけどね

何となく、ただ生きてる

僕に目的があるとしたら…今度こそ"永遠に眠ること"

ただそのために…何となく、生きてるよ

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あきゅろす。
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