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誘い
「九郎さん!」



『妹に…普通花なんか見せたくなるものなのか?

ああ、仲睦まじい兄妹ならあるかも知れんな。』



「九郎さーん」




『仲睦まじい…とは言わんだろ。それではまるで恋仲のようでは…///////』




「九郎さんっ!」




『おぉっ!?、お、お前いつからそこにいたんだ!?』



ブツブツ呟いてる九郎に何度か声を掛けても気づく気配がなかったので、櫻は大きな声で呼び顔を覗き込んだのだった。



慌てふためく九郎がなんだか可笑しくて櫻が思わず吹き出すと、九郎は更に顔を赤くして文句を言う。




『何が可笑しいんだ!

だいたいな、お前はずっと顔を出さないで何をしてたんだ?』



「そ…それは…」



『言えないのなら別に構わんっ!

景時、今日は軍議はなしだ、悪いが帰らせてもらう。』



そう言うと九郎は後ろを振り返りもせずに、庭をあとにしてしまう。



櫻がオドオドしながら後ろにいた二人を見ると、早く追いかけるように手で合図され急いで九郎を追いかけるのだった。




***********

門へと続く道を歩きながら、自分のこの苛立ちが何かを九郎は考えていた。



人の事を詮索するのは普段から好まない質なのに、櫻に話してもらえなかった事がこんなにも気になるとは思わなかった。



冷静に考えれば自分がしていることが間違ってるのは重々承知だ。



しかし今更、どの面さげて引き返していいかも分からない。




「九郎さんっ!待って下さい。」



急に着物の袖を引っ張られ九郎は立ち止まる。



「私がお世話になってる邸でー」『すまなかった!』



理由を言いかけた櫻を遮り、九郎は櫻に深く頭を下げた。



『大人げなかったな。

俺は…ただ…お前が心配だっただけだ。それなのにあのような態度をとって…本当にすまなかった。』



それだけ言うと九郎は門を抜けて通りへと歩き出す。



「くっ、九郎さん!!待って下さい。」



折角会えたのに、こんな風に今日を終わらせたくない一心で、櫻はもう一度九郎の下に駆け寄った。




「あの…九郎さん!すまないと思うのでしたら、もう少し一緒にいてもらえませんか?」



言い出せずにいた言葉を投げかけてもらったくせに、九郎は即答できず背を向けたまま黙っていた。


そしてさも仕方ないという顔をすると、こう続ける。




『軍議もなくなったことだし、予定はないからな。まあ…その…なんだ…、お前に付き合ってやってもいいぞ!

紫陽花は好きか?』


「紫陽花…ですか?はい、綺麗ですよね。」



突然のことに櫻は戸惑いながらも答える。




『では決まりだな。紫陽花が綺麗と噂されている寺院がある。そこに行くとしよう。』



「はいっ!」



強制的に誘ってしまった事で嫌われてしまったかな?と思っていた櫻だったが、意外にも九郎自らが行き先を提案してくれ心を躍らせ勢い良く返事をした。



『プッ…やはり犬みたいだな、お前は。』



吹き出す九郎に櫻は頬を膨らませ追いかける。



九郎は逃げながら思うー


ー妹の様だろうが犬の様だろうが、一緒にいたいと俺は思う…

今はこの気持ちを何と呼べばいいのかは分からなくても別にいいのかも知れんな。



そして二人は六条堀川邸に立ち寄り馬を拾うと、京の北に位置する大原の三千院を目指した。






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あきゅろす。
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