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いつもの様に梶原邸に訪れた九郎の足は真っ先へと広間へと向かっていたー


ここのところ顔を見せなくなった櫻が今日こそは来ているかもという淡い期待を抱いて。



広間に近づくにつれ、その静けさに彼女がいないことが予想できてしまう。



広間の前に立つ



案の定ガランとした空間に知らずと肩を落とす自分がいる



そんな九郎の背に朔が声を掛けた。



「九郎殿、そんなにガッカリなさらないでください。

櫻ちゃんならきっと近いうちに来るんじゃないかしら?」



『なっ!?』



突然声を掛けられたことに驚いたのか、はたまた他の理由があるのか九郎は慌てて後ろに飛び退く。



『べっ、別に、俺は…ガッカリなどしていないぞっ!


櫻が来てなかったことだって気にしたことなどない!』



ムッとした九郎がそのまま踵を返そうとすると、もう一人厄介な人物に肩を組まれそれを拒まれた。



「ふ〜ん、稽古熱心の九郎が庭に行くより先に、広間に来るのはどうしてだろうね〜。」



「そうね、兄上。ここ最近いつも広間に来ては肩を落として稽古に向かわれるものね。」



『景時っ!それに朔殿も!

くだらんことを言って、付き合えきれん。俺は稽古をしてくるっ!』



九郎は纏わりつく景時を振り払うと、騒々しく廊を戻り庭へと行った。




稽古を始めはしたが、さっきの言葉が頭から離れず全く集中できない。



俺が…櫻に会えないからって、何故落胆するんだ?



そんなわけはない



落胆する意味が分からないではないか!



否…待て…



確かに俺は何故、真っ直ぐ稽古に行かなかったのだ?





自身に自問をするが、答えより先に櫻の笑顔が浮かびあがってくる。



あいつがいるのが当たり前で、


いつも当然のように俺の稽古を見ていた。




習慣になりつつあったから、俺は勝手に広間に向かっていたのだな!




自分が出した答えに満足したつもりで稽古を再開する九郎


だが、答えが出てすっきりしたはずが、何かが引っかかって止まない。



ふと庭先に咲いている紫陽花が目に留まり、振り上げていた剣を下ろした。




紫陽花か…風情なものだな


確か大原の三千院では色とりどりの紫陽花が観賞できると聞いたことがある


櫻が来たら、連れて行ってやろう




それにしても来れないなら、来れないなりに連絡ぐらいよこせないのか!


まぁ、普通の家には遣いの者などいないから仕方ないのだろうが…


まさか、こないだの様に変な輩に絡まれてたりしてないだろうな?


って、おっ、俺は…何真剣に心配しているんだ!?


否…そうだ!妹だ、妹みたいだから心配なんだな




九郎は一人ブツブツ呟き、庭の紫陽花の前を行ったり来たりしている。



「あ〜あ、九郎は何でああも恋愛音痴なんだろうねぇ〜。

自分の気持ちにすら気づいてないなんて。」



「本当よね。これじゃあ、櫻ちゃんの想いにだってずっと気づかなそうね。」



「あんな素直な子に好かれてるなんて、ホント九郎には勿体ないんじゃない?」



梶原兄弟は濡れ縁に腰掛け、溜息混じりにそんな会話を繰り広げていたことに九郎は勿論気づくことはなかった。




とその時、花のような笑顔を浮かべた櫻が嬉しそうに廊を走ってくる。



「朔ちゃん、景時さん、お久しぶりですっ!」


「櫻ちゃ〜ん、いや〜元気そうで良かったよ〜。」


「あなたに会えなかったから、私淋しかったのよ。」


「そうそう、オレも〜。あと、あそこで怪しい動きしてる奴もね!」



景時が指さす方を見ると、ずっと会いたかった九郎が何やら頭をブンブン振ったり、その場を行ったり来たりしている。


どうやら櫻が来ていることに未だ気づいてないようだ。


「あの…、景時さん。九郎さんは新手の修行か何かをしてるんですか?」


「しゅっ、修行!?うーん、修行ねぇ。まぁ精神統一できない状態で、いかに自分の本心を突き止めるかっていう感じかな〜。」


景時は頬をポリポリと掻きながら苦笑する。


「そう…なんですかぁ。なんか難しそうですね。」


「櫻ちゃん、あれが修行なわけないでしょ!そこ、つっこむとこだったからね。」


「えっ!?」


「もう兄上ったら!櫻ちゃん、兄上のことは気にしないで、九郎殿のところに行ってきたら?」


真剣な表情で景時の話を聞いていた櫻は、笑いながらウインクする景時を前にどうしていいかわからず呆然となっていたが、朔によって促され九郎の元へと駆けて行った。

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あきゅろす。
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