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その娘とは
案外早く眠りについていたらしく、すっきりとした気分で目覚めた将臣

薄い光が外から差し込んでいてもう朝なんだということが分かる


同じ部屋で眠っている男たちが目に入り、昨夜は久しぶりに未麻と別々に過ごしたことを思い出し急に不安になる。


静かに身支度を整えるとそっと部屋から抜け出した。

恐る恐る未麻が眠っている部屋に入る。

部屋の真ん中に敷かれた褥の中で丸くなって眠っている姿が、なんとも猫のようで可愛らしい。


将臣は未麻の横に腰を下ろし、乱れた寝具を整える。


『淋しい思いをさせちまって悪かったな。今夜は一緒だから。』


未麻の綺麗な漆黒の髪を愛しそうに指で梳き、優しく頭にキスをした。


将臣は未麻の瞼が固く閉じられているのを確認すると、気晴らしに朝の散歩でもしようと宿の店主に出かけることだけ告げ外へ出た。





朝もやが光に反射しているのかやけに眩しく感じ将臣はギュッと瞳を閉じた。

でも目を閉じる瞬間にその光の中に人影を見たような気がし、額に手を当てジッと目を凝らして見てみた。
次第に薄れていく眩しさはどうやら将臣の目が慣れたからではなさそうだ。

なぜならその光は一人の少女から発せられていたものだったから。



将臣は自分の目の前に光と共に現れた少女の存在に呆然となった。


まだ自分が目にしたものが信じられず、何度か目を擦って確めてみる。

光の名残で顔まではよく見えないが確かに少女はそこにいて、しかもこちらに気づいたのか駆け寄って来る。


近づくにつれてはっきりする少女の顔を見て、将臣の身体は固まった。



だってその少女はまだあどけなさが残ってはいるが、自分の愛しい女、未麻に瓜二つだったから。



少女は満面に笑みを浮かべ、呆然と佇む将臣に抱きつく。


『未麻なのか?』

「やっぱり父様なんですね!!私の想像通り、かっこいい。ふふっ。」

将臣の呟きが聞こえてるのか、いないのか、その少女は一人興奮しているようで将臣に抱きついたまま離れようとはしない。


『おい…人間違いだろ?俺はお前に父様と呼ばれるような歳じゃないぜ。』

「父様は私をお分かりではないの?櫻ですよ?」

『まじ知らねぇから。ってか離れてくれよ。』


その言葉にその櫻という少女は淋しそうに将臣の首から手を下ろすと自分の身体を将臣から引き離した。

ひどく傷ついた表情で将臣を見上げるその少女の胸元に掛けられている白い破片に将臣は目が留まる。


それは忘れることもない

自分が時空を超えるために使ったのと同じ

白龍の逆鱗だったからだ



『おいっ、お前やっぱり未麻なんだろ?』

「だから櫻って言ってるのに…。よく私を見てみて。」

声を荒げ少女の両肩をガシッと掴む将臣を櫻は困ったように見つめる。



将臣はその時になってやっと瞳の色が違うことに気づいたのか、

もっとよく見ようと少女の顔に手を当てた。


『ホントにちげーな。お前誰なんだよ…えっ…!!』

未麻にそっくりな顔で見つめる少女の瞳はまるで自分を思い出せるような濃い蒼色だった。

将臣は咄嗟に自分の懐に手を忍ばせ、いつもそこに隠している物を探すが、手に触れるものは何もない。



光の中から現れ自分を父様と呼ぶ少女

少女が持っている白龍の逆鱗

未麻とそっくりな顔と自分と同じ色の瞳

そして、あったはずの逆鱗が自分の手元にないということ



少しずつ理解できてきたのか将臣は深呼吸をする。


『お前は俺と未麻の娘で、その逆鱗を使って時空を超えたって言うのか?』

「父様はやっぱり頭が切れますね。私の自慢の父様ですよっ!」

嬉しそうに顔を綻ばせると、櫻はもう一度将臣の首にぶら下がるように飛びついた。



自分と未麻との間にできた子なんだと分かると自然と可愛く思えてしまうもので、将臣はスキンシップの多い櫻に苦笑しつつも優しく頭を撫でる。


『俺達は元気に暮らしてるのか?』

「あ…うん…」

櫻という子がいるくらいだ、自分と未麻は幸せに暮らしているものと思い何気なく出た言葉だったのに、櫻は答えに困り言い淀んでいる。

一瞬で表情が険しくなった将臣は櫻の目をじっと見つめた。

まるで嘘は許さないと言ってるようで櫻は逸らしたいのに逸らせずに見つめ返す。



『櫻がこの時空に来た理由はそれか?』

「……」

黙って頷く櫻


『それも俺ではなく未麻の運命を変えるために』

「どうしてそれを?」


将臣は答えの代りに深い溜息を吐いた。



将臣は以前、リズヴァーンに言われたことを思い出していた。

“死を迎える者の運命は時空を超え、状況が違えど繰り返されることがある”と。


将臣は櫻の手を引っ張り宿から離れた場所へと歩き出す。

『此処では話せないこともある。場所を変えよう。』


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あきゅろす。
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