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挑発
「へぇ〜、こんなに綺麗な姫君が後ろに隠れていたとはね。」

赤髪の少年は口笛を鳴らし、ひょいっと未麻の前に飛び出すと未麻の手の甲にキスをした。

「麗しの姫君、熊野にようこそ。俺はヒノエ、姫君のこと教えてくれないかい?」

「あの・・・ヒノエくん、ちっ、近いんだけど…」



後ずさろうとする未麻の手をしっかり掴んだ赤髪少年ことヒノエは、

将臣の存在など全く気にすることなく未麻に顔を近づけてくる。



『おい…俺の女だから。』

「だから?

ねぇ、こいつなんかより俺にしなよ。」


ヒノエはパッと将臣を見たが、直ぐに視線を未麻に移し口説き始める。

そして将臣はそれを防ぐように、未麻の前に割って入った。


『ガキは引っ込んでろって。』

「ムキになって大人げねー。あんたなら幾らでも女できんだろ。俺はこの姫君が気に入ったんだって。」

『こいつの代わりになれる女なんて、いねーんだよ。』

「ベタ惚れなのかよ、かっこわりぃ。」

『うるせぇ、チビには関係ねぇ。』

「おい、チビ言うな。成長期なんだよ、今。」


二人のくだらない言い争いを人ごとのように微笑ましく眺めていると、

未麻はぐいっと顔を上に向かされる。



力の先に視線を泳がせると映る綺麗な男の顔



先ほどまで将臣と険悪な空気を纏っていた男は穏やかに自分に微笑みかけていた。




金髪に近い薄い茶髪は腰まであり、ふんわりと柔らかそう



髪に似た蜜色の瞳は優しく弧を描き、その端正な顔をより引き立てている



男性にしておくのは勿体無いその美貌に未麻は目を奪われていた。




-だから気づかなかった…その男の顔が近づいてきてることに



そして将臣もヒノエも互いに気をとられていて気づけずにいた。




未麻がひんやりとした感触を唇に感じた時には、もう既に遅く弁慶に塞がれた後だった。




「……んっ…!!!…や……っ!!!」



未麻の抵抗も虚しく、押し返そうともビクともしない。


『弁慶、お前っ、ふざけんなっ!!』


怒声と共に弁慶が湯の中に投げ飛ばされた。



岩壁に打ちつけられても尚、弁慶は余裕の笑みを浮かべている。



そして、それがまた将臣を更に挑発する。



再び弁慶に殴りかかろうとする将臣を未麻は必死になって止め、背後から抱き締める。



「将臣っ…、ごめん、ごめんね。私がぼーっとなんてしてるからっ……」



怒りに震える身体をさらにきつく抱き締めると、力なく将臣はその場に座り込んだ。




「弁慶、あんた…何考えてんだよ。冗談になってないし。」


「大事なものを奪ったら、どんな反応するかと思っただけですよ。」



「あんた、最低だ。」『…チッ』


弁慶のその言葉に将臣はまた拳を握り締める。



「弁慶、冷静なあんたらしくないよ。今日はもう出よっ。

将臣とか言ったっけ、悪かったね。気分を害しちゃってさ。姫君、今度は俺の相手を頼むよ。」


そう言ってヒノエは弁慶の手を引っ張り出て行った。



一点を見つめたまま動かずにいる将臣に恐る恐る声をかける。



「将…臣?」



『畜生、弁慶の野郎……』


思い詰めたように言葉を吐き捨てる将臣


「将臣、ありがとう。でも…キスだけだったというか…唇がぶつかっちゃったようなものだから…もう…忘れようよ。」


『たかがキスとか言うなよ!

俺は他の男に、特にあの男にはお前を指一本触れさせたくないんだ。』



将臣が壁に拳を打ちつけ声を荒げる。



『俺、先に出てっから。』



振り返りもせずに湯から上がろうとする将臣に未麻はすがりついた。





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