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熊野入り
急いだかいもあって日が暮れる間際に熊野に入ることができた。


慣れない馬での長旅だったせいで未麻の顔から疲れが見えるが、

自分を心配させないよう笑みを絶やさず振る舞う未麻がまた愛おしい。



綺麗な景色を目前にし、沈む夕陽を二人で眺めたい衝動に駆られたが、


未麻の事を思うと早く温泉にゆっくり浸からせてやりたい。


龍神温泉近くに宿を見つけると二人は早速温泉へと足を運んだ。

この時分の温泉なので勿論天然だが、ご丁寧に男女別々になっているものを探すのはかなり難しいらしい。

脱衣所が別々に設けられているのでさえ珍しいとのことだった。


宿屋の店主にそう案内されて来た二人は、龍神温泉という案内板を掲げている小屋の前で今立ち尽くしている。



「やっぱり…皆、同じ所で着替えるのよね?あぁ、水着さえあればこんなに悩まなくても良かったのに。」

『はは、そりゃ無理な話だな。計画的にこっちの世界に来た訳じゃないんだしな。』

「そうなんだけど〜」

口をへの字に曲げ、困った顔をする未麻は未だ決心がつかず、足を踏み入れようともしない。

冷たい風が背後から吹き付け、二人はブルブルと身震いをした。

『このままここにいても風邪ひくだけだぜ。

俺が中を見てくるから待ってろよ。』


そう言い残すと将臣はズカズカと小屋の中に入って行った。


数秒しないうちに出てきた将臣はニカッと未麻に笑みを向ける。

『誰もいないぜ、貸切、貸切っ!』

「でも…」

『ほらっ、先にお湯にでも浸かってろよ。お前が中に入るまで、俺が誰も入んないように見張っててやるから。

まあ、お前のことだ、俺に見られるのも恥ずかしいとか言うんだろ。』

「将臣、ありがとう。じゃあ、お先に失礼するよ。」


未麻は将臣の好意に甘えることにし、恐る恐る小屋の中へと入った。


その姿がなんとも可笑しくて将臣は声を抑えて笑いながらふと思う

(あいつらを撒けてマジ良かった…一緒だったらどうなってたことか。

未麻なんて入るのやめてたかもしれねぇしな。)


熊野への道中、何だかんだ言っても信頼している仲間たちを置き去りにしてきたことに少し引け目を感じていた将臣だったが、温泉を理由に自分を納得させていた。







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あきゅろす。
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