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捕獲
長い髪を耳元で緩く二つに結った未麻は

先ほどから茶屋でずっと横になって眠っている知盛の前に立つ。


「ご主人さま、あちらのお店でゆっくりとお酒などいかがでしょうか?」

茂みの中では将臣を始め、万屋の面々が不安そうにその姿を眺めていた。

髪型を変え、眼鏡をかけたとはいえ、やはりそこにいるのは未麻だ。
キッズアニメじゃあるまいし、そんな変装で騙せるわけないじゃないかとそこにいる誰もが思っているだろう。


重衡、経正、敦盛もまた知盛に話し掛けた未麻を物珍しげみに見つめている。

話し掛けられた知盛はというと、ピクリともせずに寝続けるので未麻も諦めて他の三人に近寄ろうと動こうとしたその時だった。

知盛の手がすっと伸び、未麻の腕を掴む。


「一人でどこに行く?楽しませて…くれるのだろ?」


そう言った知盛はむくっと起き上がると、未麻のことを舐めまわすように上から下までジロジロと眺めた。


…バレ…てる?


未麻は不安な気持ちが顔に表れないよう懸命に笑顔を保ちながら、知盛の様子を窺った。



「変わった格好だ…。まぁ、それもそれで面白い…か。

で、どこに行けばいい。」


ぶっきらぼうに尋ねる知盛が自分に気づいていないとわかった未麻は見えないように安堵の息を吐く。




「おい、あんたの連れ、未麻さんって気づいてないよ、あれ!

普通じゃないですよ。」

「ホントだな〜、まぁ違う人に見えるといったら見えなくもないってやつか。」

「銀さんが騙されてどうするアルか!」

『意外だぜ。あいつはそうゆうのには敏感に気づきそうなのに。』


茂みの中では未麻が気づかれなかったことへの驚きを各々口にしながら、

その後の経過を息を潜めて見張った。



「そちらのお兄様方も、ご一緒にいかがでしょうか?

ご主人様ほどにはお仕えできませんが、できる限りお尽くしいたしますわ。

あら…いやん。」


未麻が重衡達の近くに行こうとした時、スカートが何かにひっかかり未麻の白くしなやかな太腿が三人の前に露わになる。

三人とも驚きで目を大きくさせ、それでも視線を動かすことができず凝視していた。


「はしたないところを…ごめんなさい。

どうも絡まってしまったみたいで…」


困ったように言う未麻の声に一番先に我に返った重衡がすかさず未麻のスカートの絡まりを取ってやる。


「これで大丈夫でしょう。」

「あなた様のお手を煩わせてしまいまして、申し訳ございません。

ありがとう…ございます。」

上目づかいで重衡を見つめると、未麻は重衡の手をそっと握ってお礼をした。


いつも余裕な重衡にしては珍しく頬を染め、覚束ない口調で話す。


「あ…あの…、ご、ご一緒しても構わないのでしょうか?」


「勿論ですとも。」

華のような笑みで応える未麻に重衡が見惚れていると、知盛が不機嫌そうに二人の間に立った。


「お前の主は俺だっただろう?

コイツ等を連れて行くのはいいが、お前が最も尽くすべき男はこの俺だ。」



知盛は未麻の腰に手を回すと、力強く未麻を自分の方へと引き寄せる。


「行くんだろ?」


そう促すと皆、心を奪われたかのようにフラフラと知盛と未麻の後に続いた。






「将臣さん」

「新八…今は…よせ」

銀さんが小声で止めるのも聞かず、新八は続けた。

「案外あっさりいったじゃないですか。」


…プチン



何の音だろうと新八がキョロキョロしていると、神楽が将臣を指差している。


「新ちゃん、空気読んだ方がいいアルね。」


そっと振り返った新八が見たのは怒り爆発寸前の将臣だった。


『お前…俺がどんな思いでずっと見てたと思ってんだ?

あっさりなんて簡単な言葉で片付けられっと腹立つぜ。

早く店戻って未麻をあんな役から解放させるぞ。』



凄い剣幕の将臣に皆、何も言うことができず一目散に店目指して歩き出す。



「将臣さ〜、未麻ちゃんここまで頑張ってくれたから、あんたらこのまま行っとけば。

後は何とかなるってもんさ。こっちには性格にかなり問題あるが、顔がいい助っ人達知ってるしなぁ、新八ぃ〜」



『悪いな、銀さん。恩に着るぜ。』




店からこっそり抜け出してきた未麻は既にいつもの格好に戻っていた。


先ほどの茂みに佇んでいる将臣を見つけ急いで走り寄ると、

その足音に気づいた将臣が振り返った。


『ご苦労様。未麻、ちょっとこっち来い。』


未麻がキョトンとした顔で将臣に近づくと、何も言わずにぎゅっと抱き締めてきた。


あまりに突然だったし、腕に込められてる力がいつもより強い気がして未麻は将臣の様子を窺う。


「将…臣?どうかした?」


『情けねぇ話だけどよ、俺…お前が知盛達に触れられたり、あいつらに触ってたりしたの見てる時、マジ妬いちまった。

気が気じゃなかったんだ…あいつら何かしやしないかって…』


肩に顔を埋めて呟く将臣の耳元で未麻が囁いた。


「将臣嬉しいよ、私。私だって将臣が他の女の人といたら…耐えらんない。

今夜は二人だけでゆっくり過ごそうね。」


フーッと息を吹きかけると将臣はくすぐったそうに頭を動かす。


『行くか。』


日は既に頂点を過ぎてしまっていた。


二人はまだ暫く続く旅路を急ぐことにした。


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あきゅろす。
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