依頼
『すみませーん』「御免くださーい」
将臣と未麻、二人揃って万屋の入り口で声を張り上げる。
商売をやってるのかと疑わさせるこのこじんまりとした貧乏そうな入り口が、
まさしくあの万屋っぽくて二人は目を合わせた。
数秒後、眼鏡をかけた男が奥から現れお決まりのセリフを言う。
「うち日経とってるんで。」
『やっぱりな。』
「新一さん、初めまして」
「知った風だけど新八だよ、おいッ」
早速のツッコミに怯むことなく未麻は続けた。
「あの…依頼があるんですけど…」
すると奥の方からドタバタとけたたましい音がし、
まさしく中国の格闘家っぽい女の子が姿を現した。
『いたいた、神楽じゃん。』
「あんたに呼び捨てされる覚えないアルヨ。」
『それが客に言う言葉かぁ?』
将臣のその言葉に二人一斉に反応する。
「あんたが客らしくナイネ。」「そっちが初対面の客っぽくないでしょうがっ!」
「いいんですか?報酬はおにぎり15人前とおはぎなんですよ。」
未麻は二人の前でわざと風呂敷をちらつかせる。
中からやる気なさそうに出てきた三人目の男、坂田銀時こと銀さんは
未麻の“おはぎ”という言葉が聞こえたらしく新八と神楽の頭を無理やり押さえ込む。
「いや〜うちの連中がすんませんねぇ。
依頼だよね、さぁ入ってくれるかな〜。
ちなみに依頼達成前にそれ…食べちゃまずい?」
「達成できなかったらどうすんだよ、銀さん!」
「何が何でも達成させる、当たり前アルヨ!
パンのミミ以外食べるチャンス今逃したらないアルヨ。」
目の前で繰り広げられる言い争いを気にも留めず未麻は将臣に笑いかけた。
「安上がりでよかったね。」
『ああ。ホントにあのノリなんだな。
おい、こっちはちょっと急いでんだが、聞く気あんのかよ?』
将臣に促されハッとなった三人は急に満面の笑みで中に入るよう勧めてきた。
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「なるほどね。」
お茶を啜りながら、既に五個目のおはぎを手に持ってる銀さんは状況を理解し深く頷いた。
「要はその連中をボコボコにしたらいいアルネ。」
「ボコボコにしたらマズイでしょ、それっ!何も分かってないじゃん。」
口の回りにご飯粒をくつけたまま呑気に話した神楽に、新八はすかさず突っ込んだ。
「いいか、神楽。単にやっつけるのは楽ってもんだぁ。
今回は奴らと上手くはぐれて、別行動をとりたいんだとよ、このお二人さんはよ〜、畜生」
「ブーッ」
咄嗟に鼻を押さえる新八をあまり見ないように未麻がさっとティッシュを差し出す。
「新一さん…大丈夫ですか?」
「人の心配するっ?まだ名前間違えるあんたの記憶力の方が心配だよっ!」
(さすが…キレ役…
鼻血出てようが、ちゃんとキレてるぜ)
「わかったアル。
私がこの色気で迫るアルヨ。
皆イチコロネ。」
「『………………』」
寒い風が皆の間を吹き抜ける…。
「家の中なのに…
空気が…」
『未麻…お願いだ、それには触れないでおこうぜ。』
「あ…うん。」
未麻も皆の表情(勿論、神楽以外)を確認すると、少し引きつりながら笑みを浮かべた。
「第一作戦はまず失敗する。新八、次の作戦練っとけなぁ。」
万屋男性陣はコソコソと耳打ちしている。
神楽はというと、手鏡を片手に何やら塗ったくっているが、
その様から男を惑わせる程の美女というのは想像し難い。
「こんな感じでいいアル♪」
振り返った神楽を見て、皆一瞬にして声を失う。
「何、みんな絶句シテルカ?綺麗なのは十分わかっとるアル。」
頭を抱え込む男性三人…
未麻は苦笑しつつもお世辞を言いながら化粧をさりげなく手直しする。
「可愛いけど少しはみ出てるからごめんね。」
(未麻…お前はやっぱ優しいな)
(女神だよ…畜生)
(目悪いんですかっ!?少しどころじゃないでしょ、全然可愛くないし、化けもんだよ、あれ)
皆思い思いを胸に秘めたまま、茶屋で休憩してる例の彼らのもとに向かった。
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