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贖罪
遠くで誰かが話す声がする。

瞼を開けて映し出された弁慶の姿に、先ほどまでの情事が頭に蘇ってくる。

嫌なのに快楽を求めてしまった自分の身体に憎悪すら感じる。

ー厭らしい不埒な女だと。



瞬きもせずに天井を見つめる未麻の髪を、弁慶が優しく指で梳く。

弁慶はただ充足感で満たされていたー

それもそうだ、嘘こそはついたが、未麻の意思で自分に抱かれたのだから。別に、無理矢理犯した訳でもない。

思案していた策よりずっと良かったですよ。

優しい笑顔に時折垣間見える軍師としての冷酷な顔になど気づく事もなく、未麻は未だに弁慶に対して申し訳ないという感情すら抱いている

ー彼の気持ちを利用してしまったと。

怠い身体で起き上がろうとするが、思っている以上に腰が重い。

それを感じとった弁慶に支えられるようにして、未麻は身体を起こす。

乱れた褥から自分の着物を手繰り寄せると、褥に残された朱の跡が露わになった。

こんなにも簡単に

無くしてしまうなんて…

それも自分の侵した過ちのせいで。

なんて…

馬鹿なんだろう。

今まで優しくしてくれた九郎のことだって、

裏切ってしまったようなもの。


全てを拒むように目を瞑ると、自身の身体をギュッと抱き締める。

弁慶はそんな未麻の肩にそっと着物を羽織らせると、自分の胸に抱き寄せ耳元で囁いた。

『未麻…、
僕の許嫁になるのは嫌ですか?

君の側にずっと…

いさせてくれますよね?』

「え…、許…嫁…」

『今直ぐに答える必要などないんです。
ただ僕は君を生涯の伴侶として迎えたい、ということだけ知っててもらいたかっただけですよ。』

「…んっ…!?」

未麻の首筋に紅い華を残すと、名残惜しそうに弁慶が立ち上がる。

『君との甘く激しい夜…

夢ではなかったと

信じていますよ、未麻。

僕はちょっと出かけてきます。』

追い討ちをかけるような弁慶の言葉が、未麻に重くのし掛かる。

許…嫁…

これからも

ずっと身体を求められ

続けるのだろうか…。

その度に拒むことができない己の身体を憎しみながら、

彼の伴侶となる…。

私に残されたのは

そんな定めなのかも知れない。
ー中途半端な自分ができる唯一の贖罪であると



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